「高校生ヤングケアラー」進学校も相談増、東京都が専門職を通じて支援強化 「ユースソーシャルワーカー」に学ぶ必要な支援
「自立と福祉」の両面から支援、中退後も相談に対応
そこで誕生したのが、「自立支援チーム派遣事業」だ。これは、都立学校(主に都立高校)を対象にYSWを派遣し、生徒に対してきめ細かな相談対応を行い、社会的自立や職業的自立を促すというもの。SSWではなく、YSWと命名した理由について梶野氏はこう語る。
「高校は小中学校と違って、卒業後に進学する子もいれば就職する子もいます。そのためこの職務には、若者の主体的な自立を支援する『ユースワーカー』の機能と、生活や家庭などの諸問題の解決と軽減を図る『ソーシャルワーカー』の機能の両方が必要だと考え、YSWと名付けたのです」
こうした意図から、福祉系(社会福祉士や精神保健福祉士)または就労系(キャリアコンサルティング技能士など)の資格を持つYSWを、会計年度任用職員として採用している。現在、梶野氏の部署に54名が在籍している。
「生徒の求める支援の内容に応じ、各YSWの専門性を生かしてチームで対応しています。不登校や中退など課題が顕著な都立学校を指定し、定期的に派遣する『継続派遣』を40校・52課程で実施。加えて、継続派遣校を除くすべての学校を対象に、学校からの要請を受けて派遣する『要請派遣』も実施しており、2021年度は37校・55ケースに要請派遣を行いました」
さらに、高校中退から2年以内を目安に、本人の希望があった際はYSWが支援する体制となっている。そのことを伝えるため、中退時には高校の教職員を通じて、相談窓口を記載した「YSWカード」を渡すようにしている。

(写真:東京都教育庁生涯学習課提供)
その結果、「一緒にハローワークに行ってほしい」「高卒認定の勉強がしたい」といった相談がこの7年間で200件ほど寄せられた。「本人が何とかしようと思ったときは支援が成功しやすい」と梶野氏は話す。
専用相談窓口の新設や研修で「教職員の対応力」向上へ
高校生の不登校や中退を未然に防ぎ、中退後も学びや仕事などとつなげる役割を果たしてきた東京都のYSW。2021年度からは、YSWの支援項目にヤングケアラー支援も追加した。
「東京都では22年4月に部局横断で子どもの課題に対応する『子供政策連携室』を立ち上げ、取り組みの柱の1つにヤングケアラー対策を掲げています。われわれ教育庁としては、主に福祉保健局と連携し、学校で早期に見つけて福祉につなぐことが重要だと考えています。ヤングケアラーの子の家庭が抱える問題を解決し、学習しやすい環境をつくっていきたい。その『見つけてつなぐ』を担うのが、都立学校ではYSWというわけです」
実際、YSWが生徒の出席状況や成績の悪化の原因を探っていくうちに、家族の病気や死別などの生活課題からケアを担っていることが見えてくるケースは少なくないという。遅刻や欠席、成績不振を単に「やる気がないだけ」と判断してしまうと、その子は学校を去っていくことにもなりかねないと梶野氏は指摘する。
「支援する必要がある子には、個別に丁寧に関わっていく必要があります。そして、それは先生がすべて背負う課題ではありません。地域コミュニティーが崩壊した今、親でも先生でもない第三者が悩みを把握し、励ます人が必要です。それがSC(スクールカウンセラー)やSSW、そしてYSWなのです」
一方で、「見つけてつなぐ」に当たって、学校の意識も重要なカギになるという。そのため、東京都は22年6月、ヤングケアラー支援における学校の役割などをまとめた「教職員向けデジタルリーフレット」を作成して都内学校の教職員に周知。また、福祉系のYSWが教職員の相談に乗る「ヤングケアラー専用相談ダイヤル」という窓口も設置した。