気球が高めた米国民の嫌中感情と新冷戦の緊張 弱腰批判を避けるバイデン政権に強硬化の恐れ

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望むと望まざるとによらず、1つの出来事が思わぬ事態を招くことが国際関係では起こりうる。対中政策で「競争と協力」を掲げるバイデン政権は、難しいかじ取りを迫られている。

大西洋で撃墜した気球を回収するアメリカ軍
回収した気球の調査は事態悪化を防ぐうえでも不可欠(写真・AFP=時事/US NAVY)

「試合終了後に、(アメフト)のクォーターバックをタックルするようなもの」。中国の偵察気球がアメリカ本土の上空を斜めに横断した後、大西洋沖に出てからようやく撃墜したバイデン政権の対応について、共和党のマイク・ターナー下院情報委員長はこのように批判した。

二極化社会が深刻化するワシントンで唯一、超党派で合意できるのが対中政策。民主党と共和党は、中国に対してどちらの政党のほうがより強硬かを競っている。2022年11月の中間選挙では、両党候補が共に、いかに対抗馬よりも対中強硬派であるかを示すテレビCMを流していた。

今や「パンダハガー(親中派・媚中派)」はアメリカ政治の表舞台から姿を消した。

そのため、2月初めに突如、アメリカの上空に現れた偵察気球は共和党にとって、民主党・バイデン政権の対中政策の弱腰姿勢を批判する格好の餌食となった。

気球だけではない中国の諜報活動

実は、中国政府による諜報活動は近年、偵察気球に限らない。

アメリカのメディアによると、アメリカ宇宙軍のグレゴリー・ギャグノン少将は2022年に「太平洋を偵察する中国の人工衛星は260基を超える」と語っている。中国は人工衛星に加え、目立たないがサイバー攻撃や知財窃盗など、アメリカの国家安全保障にとって偵察気球以上に脅威となる諜報活動を展開していると見られている。

とはいえ気球は目に見えるので、偵察活動がわかりやすい。特にアメリカ本土は、東は大西洋、西は太平洋、北と南は友好国に囲まれているため、国民にとって領空侵犯の衝撃は大きかったといえよう。

次ページスルーから一転、撃墜に踏み切った理由
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