教員経験もある異色の経歴、経産省・五十棲浩二が描く「未来の教室」の姿 外の力も活用し、多様で「柔軟な学びの形」を
「教育産業室は8人中5人が文科省や教育委員会からの出向者で、いわば汽水域のような場所。実証で出てきた課題について私たちなりに関係者とも1つひとつ話し合い、文科省や教育委員会、学校とも議論して実行に移していきたいと考えています」
五十棲氏は、まだ具体的な取り組みは議論中だとしたうえで、文科省との連携についても積極的に進めていきたいと述べる。
「両省が一緒に進めるプロジェクトがあってもいいと思っています。よく『なぜ経産省が教育に関わるのか』と聞かれますが、『なぜ経産省は教育に関わらないのか』と言われるくらいがあるべき姿だと考えています。さらに言えば、他省もなぜ教育に関わらないのかと。教育は本来、国全体の話です。お互いが批判するのではなく、知恵を持ち寄り、共に教育や子育て、人材育成をどうよくしていくかという視点で前向きに議論することが大事ではないでしょうか。現場でも、先生や児童生徒、そのご家族はもちろん、地域の企業や住民の皆さんが共に学校をつくっていくことが大切だと考えています」
多様な学び方を組み合わせられる「ビュッフェ的な学び」へ
教育のICT化が急速に進み、民間企業やNPOでもこれまでにないビジネスや支援ができるようになった。現在、慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程で教育経済学を研究中の五十棲氏も、独学の際にさまざまなEdTechサービスに助けられているという。小学生のわが子がタブレット端末で好きなものを調べている姿を見ていても、細かな学びのニーズに対応するには民間の力が重要だと感じており、「これからもいろいろな事業者さんに学びのイノベーションを起こしていただきたい」と語る。

「未来の教室」の正式名称は「学びと社会の連携促進事業」だ。五十棲氏自身、母校で学びと社会をつなげ、子どもたちに多くの選択肢を用意することを意識してきたが、教育室産業室長としても「柔軟な学びの形」をつくるイノベーションに力を入れる考えだ。例えば、高校の教育に関しては単位制の活用に言及する。
「高校においては、卒業に必要な単位のうち、他校や大学、高専、あるいはボランティアや就業体験も単位として組み込むことを文科省が認めています。今後はこの仕組みを活用し、1つの学校ですべてを賄うのではなく、学校の内外に関係なくさまざまな学び方を組み合わせられる学びの形をつくっていけたらと思います。個別のニーズに対応しにくい少子化が進む地域の課題解決にもなるでしょうし、都市や地方を問わず、生徒が自分で学びを選び取ってデザインするという主体性にもつながっていくでしょう。生徒たちが外で受ける刺激を持ち帰ってくることが、学校全体のエネルギーの活性化にもつながると考えています」
また、神奈川県私学修学支援センターの立ち上げに関わり、2020年の開所から1年ほど週1回は現場に通って不登校の生徒たちと触れ合ってきた五十棲氏。文科省の全国調査では、不登校の小中学生は過去最多の約24万人といわれているが、「看過できない問題」だとし、「不登校の子も含めて児童生徒が生き生きと学べる環境を、テクノロジーや民間の力を活用しながらどう整えていくか。ここもしっかり取り組みたい」と話す。