教員経験もある異色の経歴、経産省・五十棲浩二が描く「未来の教室」の姿 外の力も活用し、多様で「柔軟な学びの形」を
例えば、学校は公平性の観点から全員に同じプログラムを提供しがちだ。しかしそれだけではなく、「各生徒が興味あるものを選び取って深めていくトレーニングの場もつくることが、自律した個人の育成につながっていくのではないか」と五十棲氏は語る。
実際、五十棲氏は聖光学院で、生徒自身が手を挙げてチャレンジできるよう、外部のさまざまなプログラムを生徒たちに紹介してきた。その結果、それぞれが自主的に参加して受けた外の刺激を学校に持ち帰り、生徒同士でまた学びを深めていくような姿が見られたという。
また、もう1つの教育課題として、公立校と私立校の格差について指摘する。
「私立校は学校外の学びの機会を活用する点で比較的柔軟に対応するケースが多いですが、私は公立校でこそ、児童生徒たちに外部の力も活用した多様な学びの機会をつくってあげたいと思っています。誰もが家庭や経済のバックグラウンドから離れて、それぞれの個性が生きるような学び方ができるようになってほしい。今後、公立校でも柔軟な取り組みができるように、われわれ教育産業室としても後押しをしていきたいと考えています」
「文科省と一緒に進めるプロジェクトがあってもいい」
経産省教育産業室では1人1台端末の本格活用を見据え、コロナ禍前の2018年から「未来の教室」実証事業を推進してきた。「学びのSTEAM化」「学びの自律化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」という3つの柱を中心に展開してきたが、スタートから5年ほどが経過した今、これまでの取り組みをどのように評価しているのだろうか。
「コロナ禍を機に1人1台端末の体制がほぼ出来上がりましたが、公教育の場でこれだけ急速にICT化に対応できた国は世界的に見ても少ないです。コロナ禍前からICT活用の議論を始めていた『未来の教室』は、学校の景色を一変させた端緒をつくった事業だったと思います。また、『未来の教室』では既存の学びだけでなく新たな学びを提案してきましたが、文部科学省、教育委員会、民間事業者、NPOなども巻き込んだ大きなムーブメントになってきていることからも意義のある取り組みだと考えています」

23年度以降は、児童生徒の自律や探究をもう一段深めていくような実証事業を進めつつ、未来の学びを実現している学校の事例を具体的に示していくことが課題だという。
「教育において理念はもちろん重要ですが、一方で理念を議論しているとなかなか進まないところがあるので、できることから事例を具体的に示すことでみんなが議論しやすい環境を整えたい。カリキュラムも含めて、ICT活用や学びの選択、自主的な学び、探究的な学びなどを実現している学校を紹介し、ほかの教育委員会や学校が自分たちもやりたいと思えるような事例が出てくれば、次のフェーズに進めると思っています」
そのためにも、未来の学びについて「ビジョンを議論する段階から、実行の段階に移したい」と五十棲氏は話す。新たな教育を展開するには規制を変えるのか、ガイドラインを作るのか、それとも既存の規制の中で柔軟に対応できるのかといった具体策を議論し、地道に実現していく必要があるという。