こうした中、これまでメルカリでは大学生や社会人の女性向けにエンジニア育成プログラムを提供してきた。だが、そもそも大学に入る時点でエンジニアを志している女性が少ない。日本の高等教育新規入学者において工学、製造、建築を専攻する人のうち女性が占める割合は16%と、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最下位だ(OECD「図表で見る教育 2021年版」)。
ならば、中高生の段階からSTEM分野に興味を持ってもらう必要がある。そう考え、山田氏は財団の設立に至った。非営利団体としたのは、営利目的の企業だと活動などが制限されてしまうからだという。
「D&Iは課題を感じている分野であり、個人的なライフワークとして取り組む方針で、ジェンダーギャップもその1つと言えます。財団としては中長期的に30億円以上を投じる予定であり、その第1弾がSTEM(理系)女子奨学助成金になります」
選考は抽選、誰でも挑戦しやすい「STEM女子奨学助成金」
この「STEM(理系)女子奨学助成金」がスタートした21年度は、中学3年生(22年4月高等学校に入学予定)の女子を対象に約100名の奨学生が選ばれ、国公立高・高専で年間25万円、私立高で同50万円が支給された。
「やってよかったと思っています。奨学生が集まる座談会に出ると、親や教員など周囲からの反対、社会における理系女子のロールモデルの少なさ、理系科目の先生に男性が多い、同級生の多くが文系を選択するなど、さまざまな理由が女性のSTEM進出のハードルとなっていると実感しました。初年度を終えて、早速改善点が見えてきました」
そこで22年度は、奨学生の対象を中学3年生の女子100名に、高校1・2年生の女子500名を加えて計600名と大幅に拡大した。
応募はオンライン形式で、予備選考の後、多数の場合は抽選による選考となる。支給額は一律年間10万円。奨学金ではなく奨学助成金として支給することでサイエンスキャンプやプログラミングスクールなど理系進学に資する体験、PCや実験道具などの物品、学資に充ててもらうことを想定している。対象校は、中学3年生の女子は日本国内の高校理数科、または高専の入学予定者。高校1・2年生の女子は理系クラス・コースに在籍(または予定)する理系志望者となっている。

こうして内容を見てみると、これまでの奨学金のアプローチとはまったく異なることがわかる。海外や国内大学への進学に伴う経済的な支援を目的とする奨学金は多くあるが、所得制限や成績など応募条件が細かく設定されているものがほとんどだ。
「STEM女子奨学助成金」は、あくまでSTEM分野に興味関心を持ってもらう女子を増やすことを目的としているため、支援者の数が圧倒的に多く、選考も抽選となっている。理系志望であることなど最低条件はあるものの、誰でも挑戦しやすい奨学金だ。
「奨学金プログラムを開始して、初年度から多くの反響や賛同をいただいています。ジェンダーギャップの解消については、ほかの多くの企業やNPO、NGOとムーブメントのような形にして行っていかなければならないと考えています。そうしなければ解消に向かうのは難しい。22年9月には私たちの財団も公益財団法人に認定されました。これからは公益財団として仕組みづくりを強化して、さまざまなアプローチで支援活動の幅を拡大させていきたいと思っています」