部活動改革で知っておくべき中体連の「真の理想」と、設立で目指したもの 過熱化に立ち向かうのは「自由」と「本当の自主性」
大学での例だが、中澤氏のゼミではこんなことがあった。中澤氏が学生たちに「今年のゼミ合宿はどうする?」と聞いたところ、学生たちは一様に面倒がって消極的な態度を見せた。そこで中澤氏が「じゃあやらなくていいね、やめよう」と言うと、一転して「やりたい」という空気になり、学生たちはじゃんけんをして幹事を決めるなど、具体的な話し合いを始めたという。
「お膳立てをするのではなく、『やらない』にベースラインを置くとやりたくなるものなんですよね」と中澤氏は笑う。それこそが自主性の表れであり、「やりたいことを自由に選んで実行する」という自己決定の練習にもなる。このスキルは人生で求められる重要な力だと同氏は言う。また、本当に自由で自主的な取り組みであれば、子どもは取り組みを通じて「相手にも相手の自由がある」と学ぶことになる。部活動で言えば、生徒の自由がある一方で、教師の自由もあるはずだ。それは例えば、「部活動の指導よりも授業の準備に集中したい」とか「これ以上は頑張れない、休ませてほしい」という顧問教師たちの気持ちだ。もし生徒がそうした教師の気持ちも受け止め、対等な立場で部活動のあり方を議論し交渉し、合意に向かう経験ができたなら、それは生徒にとって大きな学びになるだろう。
生徒にも教師にも自由があるように、部活動改革のあり方もそれぞれの自由があっていいと中澤氏は考える。
「ある講演会で、元教員の方から『どうしたらいいかマニュアルを作ってほしい』と言われたことがあります。現場はそこまで追い詰められているんだと痛感しましたが、一律のマニュアルを作って強制したら、今の苦しい状況と同じことになってしまいます」
肥大化した部活動は大きな社会問題になり、多くの人がこのままではいけないと関心を持った。それにより、ここ数年で徐々に改革が進んできたと中澤氏はみている。
「休日が増えたり活動時間が減ったりという流れは確実に進んでおり、すでに変化を感じていた教師も多かったはず。そうした動きを止めずに、改革をさらに進めていくことが大事です。地域移行も一つの手ですが、それだけに絞ると逆に窮屈になり、現場が混乱するだけに終わるかもしれない。部活動そのものをダウンサイジングしていくこと、学校間で連携して合同部活動や拠点校方式を展開していくこともあっていい。一択である必要はなく、地域の事情に応じた改革を進めるべきだと考えます」
部活動改革ではさまざまな取り組みが行われているが、なかなかうまくいかないのも事実だ。00年代には総合型地域スポーツクラブへの移行が失敗に終わったが、それを阻んだ一大勢力は、子どもを学校に預けておきたいと考える保護者だった。だが中澤氏は、今は保護者も当時ほど一枚岩ではないと説明する。
「そこまで部活をやらなくていいとか、受験を見据えて勉強させたいとか、保護者の考え方も多様化しています。現状の部活動のあり方に疑問を持つ保護者が一定数いることは、部活動改革にポジティブに働くでしょう」
保護者の中にも異なる自由があるというわけだ。
関係する人が多くその立場もさまざまで、長きにわたってあまりに複雑化してしまった部活動。大きな転換点を迎えている今、研究者のフラットな視点で解きほぐすことも、改革のための大きな力になるだろう。

(文:鈴木絢子、撮影:今井康一)
東洋経済education × ICT編集部
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