教員が押さえておきたい「メタバースの活用」、東大VRセンターに聞いてみた 議論や雑談のほか、疑似体験の活用がカギ?
最近では埼玉県戸田市や岐阜県大垣市など、2次元ではあるものの、仮想空間やアバターを活用した不登校支援を始める自治体が複数出てきているが、交流の面からも雨宮氏は高く評価する。
「アバターは性別や年齢、国籍なども超えて外見を変えられるので、新たなコミュニティーで人間関係をつくり直せる可能性もある。アバターを使うことで、みんなと一緒にいる感じや自分の存在感を示せる体験ができるのは大きいと思います。現実の生活では過ごしにくくても、メタバースの場が自分を認めてもらえる選択肢の1つになるならば、とてもすばらしいこと。そこから現実の世界につないであげられるようになれば、支援の可能性はもっと広がっていくと思います」
メタバースは学習面においても効果を発揮するのか?
通信制のN高等学校・S高等学校など、すでにヘッドセットを使ったVR学習を導入している学校もあるが、学習面においては、メタバースはどのような活用が考えられるだろうか。
アバターを使う場合では、「自分がサムライになって江戸時代にタイムスリップするような体験学習ができそうですし、人物画像の合成技術『ディープフェイク』を使った『織田信長が本能寺の変を語る授業』なども可能です」と、雨宮氏は語る。
HMDを使う場合では、見えているものをあたかも「自分の体験」として受け取れるメリットを、歴史や地理の授業に生かせるのではと雨宮氏は考える。昨年の夏からは広島県の平和記念公園を、HMDを装着して歩き、1945年当時の出来事や環境を体験する歴史ツアーを始めた。
「現実の場所とリンクさせる疑似体験はより強い教育効果があると感じており、修学旅行などで生かせるのではないかと思います。今後は触覚や嗅覚なども含めた五感が動員される通信を追求していく流れになるはずなので、よりリアルな疑似体験が可能になるでしょう。身体に障害がある人への学習支援や相互理解の拡大、教育実習や研究発表の練習にもメタバースは生かせそうです」

(写真:東京大学大学院情報理工学系研究科提供)
ただ、課題がないわけではない。HMDを使うにしろブラウザー版にしろ、疑似体験の精度を高めていくには、高性能なグラフィック処理装置(GPU)が必要となるため、例えばGIGAスクール構想下で配付された1人1台端末のスペックではおそらく対応が難しい。そのため、学校間でデジタルデバイドが生じる可能性があるという。
しかし、メタバースの活用が進めば、将来的には新しい教育手法が生まれるかもしれないと雨宮氏は期待を込める。
「現状、オンライン授業は対面授業の代替として考えることが多いですが、そうではなく、疑似体験や、架空の物の制作など、メタバースの特性を生かした授業を考えていくと、教育の可能性は広がるのではないでしょうか。オンライン授業は90分の一斉授業では疲れることがすでにわかっていますので、10分、15分と1コマを小刻みにしてメタバース授業を挟んでいくような授業スタイルも考えられます。しかしVRはあくまで手段。研究者としても、エビデンスとともに使いどころを示していきたいと思っています」
(文:國貞文隆、注記のない写真:東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター提供)
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら