教員が押さえておきたい「メタバースの活用」、東大VRセンターに聞いてみた 議論や雑談のほか、疑似体験の活用がカギ?

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東京大学のキャンパスを再現した仮想空間「バーチャル東大」

コロナ禍でZoomなどのオンライン会議システムを使った授業が広がったが、画面をオンにしない学生が多く、彼らの反応がわからないなどの問題があるため、雨宮氏はアバターやメタバースを活用した授業も試みた。例えば、21年度にソーシャルVRサービス「VRChat」を利用して行ったメタバース授業では、終わった後も空間内で質問する学生が多く好評だったという。

「VRChat」を利用した雨宮氏のメタバース授業。約40名の学生がアバターで参加

このほか東京大学では、大学院工学系研究科と工学部が中心となり、22年9月に「メタバース工学部」を開講、工学系の研究分野の紹介や人材育成などに努めている。メタバースなどを活用してオンラインで学べる社会人向けの「リスキリング工学教育プログラム」と、主に中高生を対象とした「ジュニア工学教育プログラム」を用意しており、とくに中高生や女性の興味を喚起し、DX人材育成のダイバーシティーを推進したい考えだ。

「小中高生の間では、マインクラフトやフォートナイトなど、VRがゲームなどで広く使われており、すでにメタバースを使う素地があります。今後メタバースは、教育をはじめ、ほかの分野でも応用できる可能性があると考えています」

興味深いことに、メタバースの名が付いた学部や、バーチャルリアリティを冠した専門の研究機関を全学的な組織として設置しているケースは国内では東京大学のみで、「海外でも聞いたことがない」(雨宮氏)という。

そもそも日本はVtuber(バーチャルユーチューバー)が早くからブームとなったが、VR研究も世界でトップクラス。アバター関連の技術でも日本は世界から注目されている。

「もともと日本は2次元や3次元のキャラクター作りに強みがあり、IP(知的財産)戦略へのメタバースの活用も期待されています。ちなみに、海外では現実の自分に似せたアバターを使うことが多いのですが、日本では女性のアバター利用が圧倒的に多く、しかもそのユーザーのほとんどは男性。そういった海外から見たら不思議な状況が違和感なく受け入れられている文化も、日本の個性の1つです」

一斉授業には向かない?「交流」での活用に意義がある

将来的に日本の強みを生かせそうなメタバースだが、教育分野ではどのような活用ができるのか。

実はメタバースは、定義が確立されていない。「HMDを使うかどうか」「3Dであるかどうか」「経済活動があるかどうか」といった条件に対する見解も、研究者や企業によってさまざまなのだ。

雨宮氏は、目の健康への配慮から13歳未満のHMDの使用が業界のガイドラインで禁止されていることなども踏まえ、教育界におけるメタバースについては「複数人が同時にオンラインで活動ができる3D仮想空間」と定義する。

前述のように雨宮氏はメタバース授業を積極的に行ってきたが、意外にも「先生の講義がメインとなるオンラインの一斉授業で、メタバースを使う必要はないのではないか」と指摘する。

「オンライン会議システムを使った授業は、資料やスライドが対面授業以上に提示しやすく読みやすいというメリットがありますから。教育分野でメタバースを使うときは、みんながどこにいるかを空間的・身体的に把握できるような自然な体験をVR上で実現したいときに有効。なので、ディスカッションや雑談など交流場面での活用にメタバースの意義があるのではないかと考えています」

2022年に行った、メタバースとアバターを使った雨宮氏の授業
(写真:東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター提供 ©Cluster,Inc.All Rights Reserved.)
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