長らく日本人は、「倹約の伝統に従って貯蓄に励む」人々であると国内外から考えられてきた。実際、日本の貯蓄率はバブル崩壊後の1990年代にも約10%を維持していたし、庶民の貯蓄機関として名高い郵便貯金は、郵政民営化後ゆうちょ銀行として2017年時点でも約178兆円と、単独金融機関として世界最大級の預金保有規模を誇る。
一方、失われた20年の中で政府や財界は、「日本では貯蓄の伝統のせいで個人投資が活発化しない」と見なすに至った。貯蓄習慣を打破すべき旧弊とする流れは現在も続き、22年4月、ついに高校で金融教育が始まった。若年層に貯金以外の資産形成を考えさせる政策だ。もっとも家計貯蓄率は14年以降、コロナ禍での「強制貯蓄」による上昇を除けば1%程度と、先進国中でも低水準に落ちている。
だが、日本人には本当に「貯蓄の伝統」が存在したのか。歴史を振り返ると、この伝統はせいぜい20世紀に入ってから、日本政府の政策と当時の経済成長、そして全国各地の新旧さまざまなコミュニティーが生み出した、比較的新しいものであったことがわかる。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
ログインはこちら