マレーシアで、あえて学校に行かない「ホームスクーリング」が支持される理由 「不登校」に希望を与える、前向きな自学の勧め
私立のインターに通わせた場合、年間の学費が初等および中等教育レベルで 3万マレーシアリンギット(日本円で約90万円)から 5万マレーシアリンギット(日本円で約150万円)であることを考えると、幅はあるものの、年間15万円ほどで済んでしまうところもあるホームスクーリングの学費は安いことがおわかりいただけるかと思います。ただ一方で、ホームスクールは増えすぎているため、政府は無免許の教育センターでのトラブルに注意するよう保護者に警告しています。
3. オンライン教育コンテンツの充実
3つ目の理由として、これはマレーシアに限ったことではありませんが、オンライン教育コンテンツの充実が挙げられます。今はインターネット上に、無料、有料を問わず、多様なオンライン教育コンテンツが存在します。マレーシアでも、多くのホームスクーラーがこのようなコンテンツを使用し、自学自習しています。IGCSEの試験会場では多くのホームスクーラーが集まり、「YouTubeではどんな教育チャンネルを見ているか?」と盛り上がったと聞きました。
もちろん、オンライン教育コンテンツを使用して学んでいるのは、ホームスクーラーには限ったことではありません。私が取材したインターの成績優秀者を集めたイベントでは、「どんなふうに勉強しましたか」と聞くと、塾ではなく、無料のオンライン教育コンテンツである「カーンアカデミーを使いました」という答えが返ってくることがよくあります。
また、学校の先生がそういった素材を授業で活用することもあります。長男の学校でも、先生が生徒たちに「どんなオンライン教材を使ったか」を尋ねてリスト化していました。大量のオンライン教育コンテンツの中で、子どもたち自身が「自分の好みの先生」を見つけて学ぶのがはやっています。
「YouTube動画で学ぶ」というと、顔をしかめる保護者の方もいるかもしれませんが、無料で教えることが大変上手な塾のスーパースター先生が授業をしてくれるようなもの。しかもオンラインであれば、たった1人の先生が数十万、数百万の生徒に教えることができる。無料で展開されているからこそ、アフガニスタンの有名な少女「スルタナ」のように、貧しくて学校に行けなくても、オンラインで勉強して米国の大学に入れたというような実例が出てくるのです。
私自身も、3年前に長男から「学校は時間の無駄が多い。自分の興味と関係ないことを学ぶのが苦痛だ。カーンアカデミーを使えば、学校の1週間の授業が1日で学べる」と言われて、悩んだ末にホームスクーリングを選択した経緯があります。
充実し続ける「YouTube教育チャンネル」
では、実際にマレーシアでは、どんなオンライン教育コンテンツが人気なのでしょうか。もう少し掘り下げたいと思います。
まず定番の「カーンアカデミー」では、高校課程までプログラミングを含み、ほぼ自学することが可能です。授業では、TEDの教育チャンネル「TED-Ed」がよく活用されています。科学、歴史、哲学、文化など多岐にわたるジャンルを扱い、アニメーションを使用した教育動画を展開しています。
また、多くの大学で授業をオンライン公開していることも見逃せません。とくに、日本でも人気の高い、マサチューセッツ工科大学(MIT)はほぼすべての授業を「MIT open course Ware」というYouTubeチャンネルで出しており、高校生にもわかりやすいと評判です。
同じくYouTubeで、マレーシアの子どもたちに大人気のコンテンツといえば、米国の教育者マイケル・スティーブンスの「VSauce」です。

教育コンテンツのランキングでナンバーワンになることも多いチャンネルですが、取り扱うジャンルは、哲学、言語、生物学、物理学、数学、歴史学、心理学など、実に幅が広いです。身近な疑問から科学や哲学の議論に至るその過程は毎回、圧巻です。
このほか、アニメーションを使ったドイツの科学動画「Kurzgesagt – In a Nutshell」や、量子物理学者ドミニク・ウォーリーマン博士のYouTubeチャンネル「Domain of Science」なども人気です。


数学好きなら、「Numberphile」では、50人以上の世界中の数学者がそれぞれの専門分野について語っています。「Vihart」は、米国の数学者でありYouTuberのビクトリア・ハートのチャンネル。「レクリエーション数学者」と表現し、YouTubeでは食べ物のパイやピザのアニメーションを使って、数学を教えています。