中国「都市戸籍より農村戸籍は不利」、戸籍制度とも絡む根深い教育格差の実態 超大都市に「不動産購入できない」が大きく影響
また、農村戸籍保有者が都市の大学に進学後、そのまま都市の企業に勤務したいと思っても、戸籍の問題で就職できないことが多く、たとえ就職できても都市戸籍保有者とは待遇が異なったりするという問題があった(都市戸籍にも2種類あり、個人戸籍と団体戸籍がある。都市生まれの人は個人戸籍、それ以外の人は団体戸籍に入る)。団体戸籍のまま都市の企業に勤務し続けること自体は問題ないが、彼らは数年以上納税しなければ不動産を購入できないという決まりがあり、生粋の都市戸籍保有者とは差別された。
戸籍に関するこのような不平等を解消するべく、政府は2014年以降、戸籍制度改革を進めてきた。今年7月には第14次5カ年計画(21~25年)期間の新型都市化計画を発表。常住人口300万~500万人の大都市の戸籍取得条件を緩和し、同300万人以下の都市の戸籍制限を撤廃した。結果として今後は、その都市出身ではなくても、その都市の人々と同じ教育、医療、社会保障などを受けられる人々が増えるということになる。
だが、常住人口1000万人以上の超大都市(北京市、上海市、深圳市など)の場合、戸籍制度改革はあまり進んでいないのが現状で、他省から移り住んでいる人々が、同都市の戸籍保有者と同じ権利を有することができるようになるまでには、まだ時間がかかるだろうといわれている。とくに不満が大きいのは前述したように不動産を購入できないという点だが、それは不動産の問題だけにとどまらず、教育問題にも深く関係している。
不動産の問題と深く関係している教育問題
中国の都市部には「学区房」と呼ばれる不動産がある。学区にある房(部屋=不動産)という意味だ。都市部の学校は日本同様、学区制を取っている。基本的に子どもは自宅がある地区の学校に進学するが、多くの人は子どもを重点校(いわゆる有名校)に進学させるため、その地区に住みたいと考え、子どもが幼いうちから、そこへの転居を目指す。そのため、重点校のある地区の不動産はつねに人気で、値上がりし続けるという現象が長い間起きていた。
数年前に取材した際は、どうしても子どもをある重点校に通わせたい人が、その学区内に家族で住むにはあまりにも狭すぎるワンルーム以下の面積の不動産を購入。実際は別の地区に住んでいるにもかかわらず、住所登録だけそこに移すという不正が発覚した。そこで、その都市では住所登録された住居に確かに居住しているかを事前審査したり、入学の直前にその学区に住所変更した場合は入学を認めないといった対策が取られたりした。

(写真:中島恵氏提供)
北京市や上海市のような超大都市の場合、政府の不動産政策により、多くの地元住民(都市戸籍保有者)は不動産をすでに所有しており、賃貸物件に住んでいる人の多くは外来者だ。重点校がある地区は、不動産が値上がりするほど人気なので賃貸物件は少ない。つまり、外来者で団体戸籍保有者の子どもは、重点校がある学区に住むことがそもそも難しいという問題があった。また団体戸籍保有者は、前述の農民工の場合と同じく、これまでは子どもをその都市の公立学校に入学させることさえ、基本的にはできなかった。

1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。中国、香港など主に東アジアの社会事情、ビジネス事情についてネットや書籍などに執筆している。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』『なぜ中国人は財布を持たないのか』『日本の「中国人」社会』(いずれも日経BPマーケティング)、『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『中国人のお金の使い道』(PHP研究所)、『中国人は見ている。』『いま中国人は中国をこう見る』(ともに日本経済新聞出版)などがある
(写真:中島恵氏提供)