今後日本に「サイバー省」が本気で必要になる理由 陸、海、空、宇宙に次ぐ「第5の戦場」をどうする

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これはサイバー庁ではなく、サイバー省くらいの組織でないとできない。私はサイバー省が一番上にあって他の省庁がぶら下がるくらいでないといけないと思っている。

内閣官房にある内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)はサイバー防衛の司令塔にはなっておらず、調整して対処していく調整ベースの組織となっている。そうではなく、危機管理上もサイバーインフラを維持する。

サイバー攻撃でどこかの電力が落ちたとか、サービスプロバイダーが停止したとき、必要なのは調整ではなく、どんどん陣頭指揮し、実行する仕組みだ。大きな権限と責任を持った省の設立を目指すべきではないか。

――自衛隊のサイバー防衛隊は、防衛省自衛隊のシステムをサイバー攻撃から守るためにあって、国全体のサイバーインフラの保安までには至っていません。

これは今、考え方の整理が行われつつある。日本は法令国家なので法律にミッション(任務)を定めないといけない。そのミッションが自衛隊の領域の外、あるいはシステムの外をどうするかという議論をしっかり国会でしてもらい、法律の中でミッションを与えていかなくてはいけない。

日本政府はサイバーセキュリティ戦略を策定し、悪意のあるサイバー攻撃には適時コストを課すことで抑止する方針を示している。サイバー報復は大きな議論になるので除外されているが、対抗措置として相手が攻撃をしてきたら、それに見合わないコストを被るぞと相手に意識させることは考えられている。

サイバー空間での自衛権の行使については、アメリカがすでに明確に示した。例えば原子力発電所をサイバー攻撃で破壊されたら、物理的な報復を辞さないと示した。日本ではこの議論は煮詰まっていない。一般的な経済制裁くらいまでがイメージされている。残りはレジリエンスを高めることが抑止になるとの考えだ。

また、防衛大綱の中で、相手のサイバー攻撃を未然に防止するための「妨げる能力」を持つことが記されている。今、具体的にどのような能力を持つかが議論されている。

日本がサイバー攻撃を受けるリスクはいくらでもある

以上が田中氏へのインタビューとなる。

日本は敗戦国としての軛(くびき)のもとにあり、サイバー空間でも宇宙空間でもドローンでもどこまで自衛するのか議論が煮詰まっていない。しかし、たとえば台湾有事が起きた際など、日本がサイバー攻撃を受けるリスクはいくらでもある。

田中氏が指摘するように、サイバー防衛体制を強化しなければ電力や通信といった重要インフラが機能不全に陥りかねない。サイバー省新設の提案は傾聴に値するだろう。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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