今後日本に「サイバー省」が本気で必要になる理由 陸、海、空、宇宙に次ぐ「第5の戦場」をどうする

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つまり実像で見ているものと、デジタルが作り出す虚像あるいは仮想は同じではない。そこには「認識」が入っている。どう認識しているのか。どう信じているのかが大事になる。

元陸上自衛隊通信学校長で富士通システム統合研究所安全保障研究所主席研究員の田中達浩氏

2つ目に、デジタル化で情報化時代が進化する中、あらゆる活動がインターネット空間に乗っかってきている。

ウクライナで起こっている活動は、情報戦を仕掛けることによって、認知領域で相手がどのように受け止めて認識していくのか。それによって全体の意思決定にどう作用していくのか。

また、インターネットのインフラをつぶされたら、あらゆる活動が止まる。インターネットのインフラを維持することとそれを支える電力を必ず維持しておかなければいけない。これらの2点がウクライナ戦争で明確になった。

ウクライナ戦争で明確になったこと

――ウクライナはロシアのサイバー攻撃や情報戦に対し、しっかりと対処していますね。2019年にデジタル変革省を新設したほか、開戦後にはIT軍も組織しました。

2014年から2015年にかけ、ロシアとウクライナが対立する中、当時はロシアがウクライナ内部のネットワークインフラを制していた。このため、ウクライナは、ロシアが情報を持ち、自らが脆弱であることに気がついた。

ウクライナはこの2014~2015年の教訓から、ロシアが物理的な地上侵攻を始める前にサイバー攻撃を仕掛けてくることがわかっていたので、ここを強化した。

――ロシアは2014年のクリミア侵攻では、サイバー攻撃や偽情報作戦を組み合わせた「ハイブリッド戦」を端緒として戦いに突入しましたね。

確かに実態としてみると、サイバー戦や情報戦から仕掛けたということになるが、ハイブリッド戦の本質はグレーゾーンが多いことだ。非常に曖昧なことを追求する。

国家間の衝突や軍隊の衝突は本来、国際法の世界の話だ。しかし、ロシアという主権国家が侵略してきたかどうかが実際にはわからない場合、国際法が適用できない。それでは国内法で対処すべきかとなると、それも曖昧になる。すなわち、どちらを適用したらいいのかどうか曖昧になるグレーゾーンが発生する。法律の連続線をうまく突くのが、ハイブリッド戦だ。

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