宮城教育大学附属小が「コンピューターサイエンス」を教科化した理由 根底にあるのは「デジタル・シティズンシップ」

「自分たちで価値を見いだしていける姿勢は、まさに目指す姿の1つ。今の6年生も20分程度のマイクロビットの体験を基にすぐ活動に入れるなど、学年が上がるにつれて応用力も上がってきていると感じます」と、上杉氏は語る。新田氏も、「端末やネットワークに不具合が生じると自分たちでトラブルシュートしており、冷静に目の前の事態を考えられる力が身に付いてきている気がします」と話す。

一方、課題もある。実は20〜21年度のCS科の授業時数は年間10時間だったが、3年目となる22年度は20時間に拡大した。時間が倍増したことで自由度を持って系統性をデザインできるようになったが、同時に授業づくりには難しさも感じているという。
「子どもの文脈に沿うことを大切にして体験を重視してきましたが、この3年間を通じてとくに低学年は見たり触ったりといった活動を土台にすることが大切だということがわかりました。そのため系統性を持たせるのが難しい部分もあり、探りながらやっています」と、新田氏は明かす。

また、22年度は人事異動によって担任の3分の1以上が入れ替わったこともあり、学校全体でCS科の価値観を共有することの難しさにも直面している。「研修内容を含め、今後は人事異動にも耐えうる取り組みが必要」と上杉氏は考えている。
同校の実証研究は、30年ごろに改訂が予定されている次期学習指導要領への教科としての導入も見据えた取り組みだ。小学校段階からCSを教科化する意義として、「早くからほかの教科にも転用できる確かな情報活用能力が身に付くので、取り返しのつかないトラブルを起こす事態にはなりにくいと考えられること」(上杉氏)、「SNSの問題点など、ほかの教科では扱いにくい重要な内容をタイムリーに提供できること」(新田氏)などを挙げる。
「この3年で、コンピューターの事象に『なぜ?』を持たせることが情報の科学的理解を促すことが見えてきました。そこから主体性が生まれれば問題解決や表現のツールになっていくし、デジタル社会を歩んでいく判断・思考につながることも実感しています。最終的に、子どもたちが『CSの目』で事象を捉えるからこそ積み上がっていくものをより明らかにできたらいいなと思っています」(上杉氏)
22年11月には実証研究の最終年次発表会を行う予定だ。とくにデジタル・シティズンシップの視点に基づくプログラミング教育やGIGA端末の授業活用などに悩む学校関係者にとっては、役立つ情報が得られるのではないだろうか。
(文:田中弘美、写真:宮城教育大学附属小学校提供)
東洋経済education × ICT編集部
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