宮城教育大学附属小が「コンピューターサイエンス」を教科化した理由 根底にあるのは「デジタル・シティズンシップ」

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CS科は、米国のCS教育を推進する各種団体が作成したガイドライン「K-12 Computer Science Framework」を参考に、「コンピューターの仕組み」「ネットワーク技術」「アナログとデジタル」「データと分析」「メディアの特徴」「プログラミングとアルゴリズム」「コンピューティングと社会の関わり」という7つの柱と、「情報モラル教育」という要素で構成し、学年の発達段階に応じて系統的に学びを展開している。

小学校で必修化されたプログラミング教育では「コンピューターに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」(学習指導要領総則)ことが示されたが、CS科はこれに加えて「情報やコンピューターの特性を実感」し、「デジタル社会の歩き方を見いだす」ことができる授業を構想している点が大きな特徴だ。

具体的には、プログラミングにとどまらず、コンピューターそのものや、冒頭の授業のようにデジタル化された情報を学びの対象とし、体験的・探究的な活動に浸る時間を保障することで、情報活用能力を系統的に育んでいくことと、コンピューターとの適切な関わり方を身に付けていくことを目標としている。

2021年度の2年生の授業では、校内のWi-Fiのつながりやすさを調査する体験活動を実施

このような実証研究を始めるに至った理由について、上杉氏はこう説明する。

「海外のプログラミング教育はCS教育の一環として行われていますが、先進国の中でプログラミング教育に特化しているのは日本だけ。日本の公教育においても広義的なCS教育が重要であると感じました。また、教えなくても端末を使いこなす子どもたちを見て、それがコンピューターのよさであると思うのと同時に、自覚のないまま情報を消費するだけになってしまってよいのかという危機感を抱いたことも原点になっています」

基本的にはCS科担当の教諭が授業の指導案を作るなどして校内でCSを推進し、各学級の担任が授業を実施するという体制を敷いているが、初年度には取り組みが一部の教員にとどまってしまった反省から、21年度より校内の組織改善を図った。

年3回CSに関する講演とグループ協議を行う全体会に加え、新たに校内にCSワーキンググループを発足。これにより各担任のCS科に対する理解向上や組織的な広がりが見られたという。

「組織改善により各学年に授業内容の検討を任せる仕組みもでき、先生方から『いい教材はありませんか』『こういう授業をやりたい』といった相談が多くなりました。今振り返ると、『教科書がないのでわれわれが頑張って指導案を作り込まないとほかの先生たちが困ってしまう』という思い込みがよくなかった。先生方がCS科を自分事として捉えるようになったのは大きな成果。今年度はさらに学年の創意工夫が生かされるよう、指導案は狙いも仮置きにして提案の体裁で校内に下ろしました。いろんな視点からの授業ができていくといいなと思います」(上杉氏)

新田氏も「最近では、先生方から『CS、面白いな』とか『子どもも変わってきた』という話も聞くようになりましたね」と話す。また、教員アンケートの結果によれば、CSに取り組んだことで、教員間でのICT活用スキルの格差が縮まったと考察できる成果も出ているという。

成果から見えてきた「CS教科化」の意義とは?

コロナ禍の前からCSに取り組んでいるからか、GIGAスクール構想により1人1台の情報端末が入ったときも大きな混乱はなかったそうだ。そのほかにもいろいろな場面で子どもたちの成長を感じるという。

例えば、2020年度と21年度の6年生の「AIってなんだろう」という授業では、機械学習を用いたプログラミングを実施。どのような場面で活用できそうか考えさせたところ、図書室の整理にAIを使った画像認証技術が生かせないか主体的に試そうとする姿が見られた。

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