世界に後れを取る「メディア情報リテラシー教育」今始めないとマズい訳 求められるデジタル・シティズンシップの視点

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「今回、この報告書で『メディア情報リテラシー』と『デジタル・シティズンシップ』という用語が明記されました。つまり、これらの概念を政策に盛り込む方向性が明確になったのです」と、坂本氏は説明する。

メディア情報リテラシーとは、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が提唱する概念だ。メディアメッセージをクリティカルに読み解く「メディアリテラシー」と情報を評価する「情報リテラシー」を統合し、さらには「ニュースリテラシー」や「デジタルリテラシー」などの関連リテラシーをも包含したものとして定義づけられている。「総務省が採用したことで、今後日本でもこのユネスコの広い捉え方が標準になると思います」と、坂本氏は話す。

偽情報や誤情報に振り回されているのは、子どもだけでなく大人も同様だ。大人がヘイトスピーチや陰謀論、特定の団体・個人への誹謗中傷などの発信者になっているという現状もある。

「そのため総務省では、まずは図書館や生涯学習センターなどを活用して、教員を含む大人を対象に社会教育としてメディア情報リテラシー教育を展開していく計画を立てています」

「探究学習」を軸とした「カリマネ」がカギ

学校現場においても、今後はメディア情報リテラシー教育が実践されていくことになるのだろうか。

「総務省が動き出し、内閣府もデジタル・シティズンシップが重要だとしています。中長期的に見れば、おそらく次期学習指導要領では、デジタル・シティズンシップ教育が導入され、その一環としてメディア情報リテラシー教育も取り入れられることになるでしょう。しかし問題は、次の学習指導要領の改訂まで待っていられるような悠長な状況ではないということです」と坂本氏は語る。

例えば、何も教えられてこなかった今の大学生たちは、バイアスへの意識が低いなどリテラシーが十分には身に付いていないという。小・中学校でも、インターネット上の情報源の真偽を検証することの大切さや方法を教えないままに、調べ学習や発表などを行っているケースが数多く見られるそうだ。

しかし、小学生からスマホを持つ子は増えており、日常的にディスインフォデミックに接しているケースも多い。「このままでは、そのリスクから自分の身を守れないし、誤った情報の発信者にもなりかねない」と坂本氏は警鐘を鳴らす。

本来であれば教育委員会や学校現場は、今すぐにでも従来の情報モラル教育からデジタル・シティズンシップ教育にシフトし、メディア情報リテラシー教育に取り組む必要があるといえる。しかし、学校ではどのような授業を行えばよいのか。

例えば坂本氏は、学校で授業を行う際、「5キークエスチョン」というものを使っている。これは、メディアリテラシーの基本原理を学校で取り入れるために、CML(Center for Media Literacy)が作成したものだ。米国の学校では、メディアのメッセージを読解するときや、自分が制作した作品について、この5つの問いに沿って考え、議論することが行われている。これを坂本氏が日本語に和訳したものが以下の「『さぎしかな』リスト」だ。

【「さぎしかな」リスト】
(作者):メッセージの作者は誰か?
(技術):どんな表現技術が使われているのか?
(視聴者):ほかの視聴者はどんな解釈をしているか?
(価値観):どんな価値観が表現または排除されているか?
(なぜ):なぜこのメッセージは送られたのか?

情報リテラシーに関しては、米国の図書館協会が開発したチェックリスト「クラップテスト」を活用しているという。米国の学校では、このリストを使って情報の評価の仕方を子どもたちに考えさせる教育が推奨されている。以下の「『だいじかな』リスト」は、このクラップテストを坂本氏が日本語で再構成したものだ。

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