伊藤穰一、Web3「学校の外でいくらでも学べる」時代の学校と先生の役割 日本の教育は安定的でフェアだが多様性がない
学校の外の学びを活性化し、学校の学びにつなげることが重要
――日本と米国の教育はよく比較をされますが、伊藤さんはどう見ていますか。
日米を比較して、米国がいいとは決して言えない。米国から見ると日本は安定していてフェアな教育がある。でも日本には多様性がなくて、米国には面白い研究が多くありますよね。
僕は自閉症について勉強していることもあり、その観点から言えば、米国では自閉症の子どもたちに対するサポートが進んでいます。例えば行動分析型教育というものがあるんですが、これはよいことをしたらアメをあげて、悪いことをしたら罰を与えるというように、その子の行動を見て直しながら育てていくというものです。
その基本は、外の評価によって子どもたちは何をしなければいけないのかを学ぶ、それをひたすら繰り返すことにあります。しかし興味深いことに、そうして育てられた人は「それは自分ではない」と。何をすればいいかを理解して行動はできるが、シミュレーションを繰り返しているにすぎず、「自分として生きたかった」と言います。
でも、この自閉症の子の研究は、普通の子にも当てはまりますよね。本当は好きなことがあるのに、外の評価を気にして、やりたくないことをするとストレスを感じてしまう。教育についても同様で、その改善ポイントは子どもの特性に合わせていくことにある。今、米国では、この考え方が主流になりつつあります。

もう一つ、米国では学校の内と外をつなげる接続型教育、コネクティッドラーニングが進んでいます。学校の外で学んだことが、学校での評価とリンクして評価を受けるというものです。
よくよく考えてみると、大学を卒業してきちんと就職している人ほど、親の友達やクラブの先輩など学校の外にいろいろなネットワークがあって、そこで学びを得た人が多いですよね。つまり、学校の中で学んだだけでよい会社に就職できるわけではない。データを見てもそうなのですが、エリート教育を受けられる子とそうでない子の差は、この学校の外の機会があるかどうかにあります。
では、インターネット時代における学校の外の機会とは何か。子どもたちが今、学校以外でいるところといえば、YouTubeやMinecraftですよね。そこでの学びを活性化して学校の学びにつなげていくことが重要で、最終的にはその学びをリアルな機会につなげていくというのが接続型教育です。今、米国ではかなり研究が進んでおり、来年春には僕も日本に持ち込みたいと考えています。
――日本の大学教育ついてはどのようにお考えでしょうか。
プロジェクト型で学ぶことが非常に重要になっていると思います。学部の段階から、何のためにこの学問を学んでいるのかを明確にすべきです。MITメディアラボでも学部生を大学院の研究メンバーに受け入れたことで、やる気を出して勉強するようになりました。学部生も大学院の研究に参加させたほうがいいと考えています。
また、異業種の人たちが集まるプロジェクトなどに学部生を参加させることも必要です。とくにものづくりはコラボしやすいのですが、そこにはきちんとしたパーパスが欠かせません。台湾の政治家・プログラマーであるオードリー・タン氏も言っているように、社会に貢献したいというパーパスの下、いろいろな人が集まってプロジェクトに参加することによって、学びが起こるのです。今は個性豊かな人材を集めてチームで闘う時代。プロジェクト型教育によって、そうした人材を育成していきたいと思っています。
――理系の話はよく出ますが、文系はどうでしょうか。
今は文系に少しテクノロジーを交ぜたほうがいいのかもしれません。例えば、ゲーム業界ではクリエーティブな人でもテクノロジーがわかるから、ビジネスモデルを変革することができるし、どんどん自分たちで何でも作ってしまいます。文系に応用技術が入れば、何かを生み出す力は大きくなります。
日本ではリーダーになりたい人は法学部や経済学部に進みますが、米国ではリーダーになりたい人でも理系に進んでいます。実際、米国の投資銀行でも新人の半分ぐらいは技術者です。
僕もMITとハーバード大学で講義をしていたのですが、MITから法学部に入る学生が増えています。そういう意味では、若いときにテクノロジーを学んで、その後、文系に行くほうが自然かもしれませんね。日本でも数学が苦手だから文系という考えから脱却していけば、新たな可能性が開けると考えています。
――今、日本の教育に対してはさまざまな指摘がありますが、アドバイスはあるでしょうか。
日本の教育でうまくいっている部分はそのままでいいと思います。ただ、世の中には僕みたいな、ちょっと変わった子が全体の10分の1くらいはいるはず。でも、隠れているか、潰されているか、機会をもらえていない子どもが多いと思います。そうした子どもたちのやる気を潰さずに、うまく機会を与えればいい。そうすれば、少しは多様性も増えて、今までできていなかったことが、少しはできるようになると思っています。