なぜ、日本には「女性の研究者」が少ないのか、そこに存在する壁とは? 女子中高生「理系進学」応援する取り組みを取材
PSGの活動内容は、第一線で活躍している女性教員や女子大学院生など女性研究者の研究を動画で紹介すること、そして女性研究者とのオンラインによるワークショップが中心となっている。ほかにも進路決定に役立つ情報として、奨学金情報、他団体によるイベントの紹介などをPSGのサイトを通して提供している。同副代表で慶応大学経済学部教授のグレーヴァ香子先生が説明する。

Path to Science for Girls(PSG)副代表。慶応大学経済学部教授。専攻は理論経済学、とくに非協力ゲーム理論およびミクロ経済学。神奈川県出身。1986年に慶応大学経済学部を主席で卒業、88年に慶応大学大学院修士課程を修了。95年にスタンフォード大学経営大学院でPh.D.を取得し、同年に慶応大学経済学部に助教授として着任。2007年に教授に昇格する
(写真:PSG提供)
「私たちは女子中高生たちに対し、絶対に研究者になってほしいということを言っているわけではありません。今、学術領域で活躍している女性たちの最前線を知り、そこに向かっていろんなアプローチをする中で、自分にとっての最良の場所を見つけてほしいのです。これまで普通の女の子が自分はこの程度でいいや、と思っていた将来の人生設計を、もっといろんなことにチャレンジする方向に変えてもらいたい。そのために現在は全国どこからでも参加できるオンラインを中心に、女性研究者の動画紹介やワークショップを行っているのです」
日本では今、さまざまな領域で女性の社会進出が進みつつあるが、学術領域で活躍する女性、とくに理系の女性研究者は依然として少ない。実際、OECD(経済協力開発機構)が昨年発表した調査でも、STEM分野の高等教育機関への入学者のうち女性が占める割合は、自然科学と工学の2分野において、36カ国中、日本は最下位だった。一方、海外では学部卒でなく、修士・博士の資格を持っていなければ有力企業に就職できなくなりつつある現状もある。欧州では女性の修士号取得比率が上昇しているが、日本は低水準のままで女性の高学歴化が進んでいない。
「理系の学部は、女性比率の高い大学でも、女性の割合が低いことが多い。この理由は複数あると思いますが、女子が大学に進学するときの進路選択において、親御さんや学校の先生から、理系を選択することに対して、必ずしもポジティブなフィードバックをもらえていないという現状もあるようです。とくに地方では、自分の身近な所に第一線で活躍する女性研究者などのロールモデルがいない場合も多く、周囲の決めつけなどによって、どうしても理系や首都圏などの合格偏差値の高い大学への進学を阻んでしまうこともあるようです。こうしたネガティブなフィードバックが重なった結果、現在のような状況になってしまったと考えています」