日本の女子中高生をエンパワーメントする
「Girls Unlimited Program」(以下、GUP)は在日米大使館が、日本の女子中高生のエンパワーメントを目的にメンター・メンティーシップを取り入れたプログラムとして2017年に始まり、20年より助成プログラムの1つとして、新たなスタートを切った。こちらのプログラムは、女子中高生が夢や目標を見いだし、自分らしく輝くことを応援する。企画、運営、教育コンテンツの開発は、フルブライト奨学金プログラムなど米国務省人物交流プログラムの卒業生が中心となり、各界で活躍する国際感覚豊かなメンターたちが行っている。
GUPは講演、ワークショップ、ディスカッションの3つを組み合わせて行われており、参加者は同世代の女子中高生やメンターらと対話を重ねながら、自分と異なる経験や考え方、価値観に触れ、視野を広げることができる。17年から18年にかけては米国大使館が主催。19年には米国大使館と開発教育協会(DEAR)が共催し、20年からはGUPに関わってきたモデレーターやメンターが運営を引き継ぐ形で、これまで約200人のメンターと女子中高生たちが参加してきた。GUPが生まれた経緯について、玉川大学教育学部教授の大谷千恵さん、大阪大学全学教育推進機構准教授の金森サヤ子さんとともに、GUPの代表を務める東京家政大学人文学部准教授の並木有希さんが次のように語る。
「GUPは、在日米大使館広報文化交流部が立ち上げました。米国務省人物交流プログラムの過去の参加者である日本人同窓生が、米国で得た留学・研修経験を次世代へのメッセージとして伝え、日本の女子中高生のエンパワーメントと、リーダーシップ醸成を促すことを目的としたのが始まりです。これまで年2~3回の頻度で開催しており、各界で活躍するリーダーや研究者、教育者など、人物交流プログラムのOB、OGの方々にメンターになっていただき、講演やディスカッション、ワークショップなどを開催しています」
メンターには、第一線で活躍する社会人が多く協力している。
「キーノートスピーカーとして、元・宇宙飛行士の山崎直子さんには、17年以来、毎年欠かさずご登壇いただいています。宇宙から俯瞰して考えるということを、メンティーである女子中高生や、メンターたちにも伝えていただいているのです」と、代表の並木さんは語る。
並木さん自身も02年にフルブライト奨学金の大学院留学プログラムを経験し、世界に羽ばたいた1人だ。メンターの共通点は、何らかの形で米国に関わりがあること、そして元は進路に迷う中高生だったことである。ごく少数だが男性メンターも参画しているのが、ほかのガールズエンパワーメントプログラムにはない特徴なのだという。皆、GUPの活動を通じて、次世代を担う女子高生たちが多様な価値観に触れ、自身の夢や目標を見いだし、人生の新たな一歩を踏み出すきっかけにしてほしいという思いで、活動を続けている。
「活動を始めたのは、職場や家庭以外につながりを持ち、世界を広げたい。さらに私たちも先人たちの恩を受けて成長し、今の仕事をする環境に至っていることを考えると、この恩を次世代につなげていきたい。そして自分の成長のためにも、楽しみながら社会的な貢献ができるといい。そう思ったのがきっかけです。私たちは多くの女子中高生たちに向けて、留学を含めて、将来のことを考えるチャンスを提供したいと考えています。とくに地方に住み、新しい活動へのきっかけがなかなか持てない女子中高生たちに参加してもらえたらうれしい。実際、参加者は全国の各地域に広がっており、1回のプログラムで30~40人が参加しています。コロナ禍ではオンラインに切り替わりましたが、オンラインならではの利点を生かした企画も充実し、参加人数は全体で200人を超えました。これからも全国の女子中高生たちの皆さんが、将来の人生を考えるヒントを得られる場を提供していきたいと思っています」
日本社会に根強いアンコンシャス・バイアス
今、日本でも、世界でも、女性が社会的に活躍するための環境づくりが活性化している。2015年には動画投稿サイト「YouTube」が3月8日の国際女性デーに合わせ、若い女性たちに応援メッセージを発信する「#DearMe」(あの頃の私へ)というキャンペーンを展開。当時のミシェル・オバマ米大統領夫人やキャロライン・ケネディ駐日米大使らの動画「#DearMe」は、GUP内でも紹介され、大いに参加者をインスパイアしたという。
「各国それぞれにジェンダーバイアスはありますが、とくに日本の女性は育っていく過程のさまざまな場面で、『娘だから、女だから、子どもだから』と言われることが明に暗にあるように思います。そのメッセージにさらされ続けることで、本人がそれを意識せずとも、周りの期待をどんどん内面化していく場合が少なくありません。結果、進路に迷ったり、精神的に苦しむケースも多く見られます。私は、都内の女子大学で教壇に立っていますが、実際に学生に接していても、学生はまじめで努力家のよい子が多く、指示を待って、正解を知ってから行動したがる傾向が強いように見えます。周囲の期待に応えたい、失敗したくないという思いが強いあまりに、本当の自分の希望を考える余地が減っているように思います。このままでは、正解のない世の中で、生き抜く力が弱くなってしまうのではないか。私たちは、次の世代の女性が、自分らしく生きるための一助になりたいと思っているのです」
これまでGUPには多くの女子中高生が参加してきたが、どのような反響があったのだろうか。GUPのホームページには、卒業生から「GUPの魅力は、自分自身にとことん向き合い続けられるところ。さまざまなロールモデルとの出会いがあった。みんなも、自身の背中を押してくれる人とぜひつながってほしい」「社会経験が豊富なスピーカーやメンターの話を聞くことができる。同世代の参加者たちとディスカッションし、自分の意見を共有して、視野を広げることができた」などの、熱く感動を語った声が寄せられている。
「私たちは最初から優秀で、環境が整っており、目標が明確にある子を選抜したいとは思っていません。何かしたいという気持ちがあっても、やり方がよくわからない。あるいは、目標があっても難しく思えて行動に移す勇気がない。でも、自分を変えたい。そんなもやもやした思いを持っている子たちに、ぜひ来てほしいと思っています。GUPに参加し、ほかの参加者と話すことが、自分の殻を破るきっかけになるかもしれません。私たちは、GUPが中高生だけではなく、メンターとして参加する社会人にとっても、『自分のことがわかった』『次の一歩を踏み出すことができた』そうした感想を持てる場であり続けたいと思っています」
GUPは今年も8月から全5回のプログラム「Girls Unlimited Program Summer 2022」を開催する。プログラムはすべてオンラインで行われ、対象者は12~18歳までの女子中高生(性別は自認)。参加費は無料。定員は30人程度で、400字程度のエッセー選考で参加者が決められる。今回のSummer Programの応募の締め切りは22年7月17日(日)。プログラムはスタンフォード大学の「ライフデザイン」メソッドをベースにしたワークショップを通じて行われる。ほかに、スタンフォードオンラインハイスクール校長の星友啓さんをはじめ、各界のフロントランナーが登壇するセミナーも随時開催される。
「米国の大学ですばらしいと思ったことは、1年生の1学期に、こんな自分になりたい、こんな将来を送りたい、こんな働き方をしたいという自分の目標についてじっくり考え、逆算することで、今何を勉強しなければならないのかを考えるという授業があることでした。私たちもこのメソッドを利用しながら、ロールモデルになるようなメンターたちとの対話を通じて、自分たちの将来や、今やるべきことについて考えてほしいと思っています」
11月には第2弾となる「Girls Unlimited Program Autumn 2022」の開催を予定しており、12月には夏秋の参加者が合同で参加するセッションが行われ、元・宇宙飛行士の山崎直子さんほか、豪華なゲストが登壇する予定となっている。
「女子中高生は、学校と受験勉強などが生活の中心にあって、どうしても視野が狭くなりがちです。また、情報が多い世の中では、性別役割についての偏見にさらされやすい。その中で、例えば『女子は文系』『女子はサポート・調整』『女子は地元』『女子は最終的に家庭』などの、根拠のない思い込みを内面化しているのを見受けます。しかし、実際には女性の可能性も進路も多様ですし、ジェンダーにとらわれない個人の特性を見いだし生かすことが、幸せの道です。私にも子どもが3人いますので、子どもの幸せを願う気持ちや心配は痛いほどわかるのですが、彼らを信頼し、自由に動き、考えられる場所を提供してほしい。少し意識して声かけや誘導を変えていくことで、ガールズは驚くほどに変わります。私たちもGUPを通じて、世の中にはいろんな生き方をしている大人がいる、そうした大人たちと会って、女子中高生たちが同世代の仲間と、信頼をベースにした協働関係をつくれる場を提供したい。そのためにも、この活動を今後も継続していきたいと思っています」
Girls Unlimited Program Summer 2022の詳細はコチラ
Girls Unlimited Program Autumn 2022の詳細はコチラ
(文:國貞文隆、注記のない写真:プラナ/PIXTA)