学習指導要領改訂と3観点の整備で重視したい「自らの学習を調整」する力 3観点「主体的に取り組む態度」をどう見るか

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市川氏が20年来取り組んでいる「教えて考えさせる授業」、略して「OKJ」では、必ず子どもたちのペアを作って、互いに説明させる時間を設けている。

「その際には、定義と具体例をセットにすることが説明のポイントだということも伝えます。そして『この説明ができたかどうかで、自分がわかったかどうかがわかるんだよ』と教えるのです」

わかるとは何かを知ることで、子どもたちは「わからないとは何か」をも理解することができる。学習の自己調整にはこの両者を明確にすることが不可欠だ。また、きちんとわかることはさらに深い理解にもつながり、長く残る本物の知識をつくる。

「大学受験を終えて、勉強したことをほとんど忘れてしまったという例は数多く報告されています。これは思い当たる大人も多いでしょう。例えば丸暗記しただけの歴史用語や年号はすぐに忘れてしまいます。でも因果関係や理由、前後の流れをつかんで深く理解していたことなら、何年経っても忘れることはありません」

また「OKJ」の振り返りでは、子どもたちに「わかったこと」とともに「わからなかったこと」も書かせる。後者を書かせる教員は少ないと市川氏は続ける。

市川伸一(いちかわ・しんいち)
東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高等学校校長補佐。専門は教育心理学。認知心理学に基づく教育のあり方などをテーマに研究している。文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員。『「教えて考えさせる授業」を創る アドバンス編:「主体的・対話的で深い学び」のための授業設計』(図書文化社)、『教育心理学の実践ベース・アプローチ』(東京大学出版会)など編著・著書多数
(写真:市川伸一氏提供)

「子どもが『わかった』と言ってくれることは教員にとって気分のいいことです。一方で『わからなかった』とは言われたくないし、子どももそう伝えることをためらってしまう。でも、もし多くの子どもが理解できていないことがあるとすれば、それを明らかにすることは教員にとっても次の指導につながるでしょう」

ほかにも日常の中で、子ども自らが学習を調整する力を伸ばすことができる。市川氏は漢字テストを例に挙げて説明する。

「まったく書けなかったのか、へんやつくりを間違えたのか、それともはねを忘れたのか。ただ間違った字を反復練習させるだけでなく、どう間違えたのかを考える習慣をつけることが重要です。それによって成績は必ず上がってきます。さらに学年が上がると、自分がどんなミスをしやすいかということにも気づくはずです」

ミスを振り返ることの意味が理解できれば、復習すべきところの判断も自発的にできるようになる。テストはそうしたことを見極めて次の対策を練るためのものであり、間違えずに得点を稼ぐためのものではない。市川氏は「間違えたところを子ども自身で振り返り、悔しいと感じたり、次は間違えないぞと思ったりする。まさにそれこそが学習」だと語る。

「中学生ぐらいになれば、生徒に定期テストの振り返りリポ―トを書かせることも有効です。学習の自己調整の力をさらに伸ばすことにもなり、教員からの評価にも生かすことができるでしょう」

「内容指導」に偏らず、適切な「学習方法の指導」を

市川氏は、予習や復習をさせない現在の教育のあり方にも疑問を呈した。

「責任感の強い教員の方から、『授業の中で力をつけてあげたい』という声を聞くことがあります。でも授業の中だけで深く理解し、長く使える学力をつけることは現実的ではありません」

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