八重樫通氏「すでに破綻している」学校は部活動改革だけでは変われない 茨城県の公立中学校で部活動の地域移行を実現
必要なのは指導者のマネジメントとコントロールで、DCAAでは土日の練習を禁止するなど、「部活動の肥大化」を避けているという。勝利至上主義の問題点が叫ばれて久しいが、そもそも部活動が肥大化してしまうのはなぜなのか。
「教員とは、あまり認められない存在なのだと思います。献身的な犠牲も当たり前だと思われているし、学習指導の結果はもちろん生徒の努力によるもの。教員自身の自己有用感を求める思いが、部活動の成績というわかりやすい結果に走らせてしまう要因のひとつだと思っています」
試合に勝ったときの生徒の笑顔は何にも代えがたいし、教員冥利に尽きるものがある。「私にもそうした俗人的な部分はあります。部活動改革を評価されればうれしいし、気持ちはわかる」としながら、あくまで「子どものため」という目的を忘れてはいけないと語る。
「少し前にはSNSで『教員の顧問拒否運動には賛成できない』と発言して炎上しましたが、部活動改革を教員の働き方改革の側面だけで捉えると子どもが置き去りになる。それでは勝利至上主義の部活動と同じだと考えています」
働き方改革自体、本来は子どものためのものだと八重樫氏は強調する。
「教員が授業の研究や準備をする時間がないような状態では、生徒にとっていい授業ができるわけがない。だから働き方改革が必要なのです」
部活動改革で大きな実績を残してきた八重樫氏だが、「それだけでは学校は変わらない」と言う。
「お話ししたとおり、すでに学校は破綻しています。最大の目的は、生徒のために授業をどうよくしていくかということ。そのためには学校経営全体への改革が必要であり、部活動改革はその1つにすぎません」
八重樫氏は「学校の管理職は皆、泥の中をはいずり回る思いで働いています。何かを変えようとすると、さらにハイヒールで頭を踏みつけられるような状態になる」と例える。その中でもがきながら活動を続け、初めてスポーツ庁が茎崎中に視察に来たときは「それまでのつらさを思って涙が出た」と語った。定年を迎えた際には「あぁ、これでやっと解放されるんだ、という感覚でした」。
しかし八重樫氏は現在も全国の教員に語りかけ、行政へ提言を行い、活動を続けている。
「先週は福岡、今週は山形で、その前は愛媛に講演に行きました。校長時代はそう学校を離れることができなかったので、少し自由になった今、できることをしたいと思っています」
同氏を動かすのは、「子どもからお金を取っていいのか」というあの言葉だ。
「あのとき言い返せなかったことに、答えはないと思っています。それでも私はずっと考え続けています」
それは学校だけに押し付けていい問題なのか、社会全体で考える“べき”ことではないのか。だが八重樫氏はその問いをニヤリと受け流した。
「何かをすべきだという『べき論』は、何の力にもなってくれません。私はそれより、自ら物事を動かす実践家でありたいのです」
(文:鈴木絢子、注記のない写真:Graphs / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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