八重樫通氏「すでに破綻している」学校は部活動改革だけでは変われない 茨城県の公立中学校で部活動の地域移行を実現
「根回しなど円滑にするための努力もしますが、多様な意見を集めて摩擦を起こすことが前に進むエネルギーを生むと考えています。議論は活発なほうがいいので、今もSNSなどを活用し、情報発信には積極的に取り組んでいます」
「ボトムアップなら変えられる」と実感した、ある取り組み
八重樫氏が情報発信を重視する理由はもう一つある。KCSCを立ち上げたばかりの頃は何度も諦めそうになった。どの窓口へ陳情に行っても、門前払いかたらい回しが関の山だったためだ。
「部活動の運営方法を含め、日本型教育は戦後約80年ほぼ変わらずにきました。だからこそ破綻をきたしているのですが、80年変わらなかったものを私が変えるなんて、やっぱり無理なんじゃないかと思うこともありました。校長とはいえ、全国に公立中学校は約1万校あります。私はその1万分の1人にすぎないのですから」
八重樫氏の折れかけた心を支えたのがクラウドファンディングだった。プロジェクトは目標金額の100万円を大きく上回る133万6000円の支援を集め、その結果に大きな手応えを感じたと同氏は言う。
「全国の見ず知らずの人たちがこんなに応援してくれるのかと驚きました。偉い人に頼んでも物事はそうそう変わらない。でもボトムアップなら変えられるかもしれない、と気づいたのです」
八重樫氏はこれまで、現場が動いて行政に結果を見せることの重要性を実感してきた。だからこそ情報発信にも注力しているのだ。現場の議論を盛り上げようと発信する同氏のSNSには、若い教員から多くの悩みが寄せられる。そうした声にも真摯に答えているが、八重樫氏が最も訴えかけたい相手は全国の校長だという。
「学校は残念ながら、校長を無視して変わることはできません。だからこそ現場の声を聞き、校長先生に動いてほしいのです。私自身、校長にならなかったらここまでの責任感を抱かなかったかもしれません。今は文部科学省からも方針が出され、新しい取り組みも進めやすいはず。私が辛酸をなめていた頃とは違うのですから、ぜひやってほしいですね(笑)」
「ちょっとやそっとの戦いには負けない自信がつきました」と冗談めかして、後続のための道をならしてきた自負をのぞかせる八重樫氏。だが数々の苦労の中で、今も忘れられないことがあると語る。部活動の地域移行に当たって、受益者負担型の団体をつくろうと提案した時のことだ。
「ある先輩校長に、『子どもたちからお金を取るなんて、そんなことをしていいと思っているのか』と言われました。教育として、そんなことがあっていいのかと」
八重樫氏は「いいと思っていることと、やらなければならないことは違います」と言う。「でも私も、子どもたちからお金を取っていいとは思っていません」と寂しげに目を伏せた。

(撮影:風間仁一郎)
管理職たちも「泥の中をはいずり回る思いで働いている」
文科省は2021年2月に「公立学校の教師等の兼職兼業の取扱い等について」という通知を出し、部活動指導を望む教員に別途謝礼を支払って活用する指針を示した。例えばDCAAでは、兼業の教員が男子バスケットボールクラブを指導している。大会での成績も優秀だが、八重樫氏は安易な教員の兼業にはリスクを感じている。
「このクラブは、1年前は全国大会で初戦敗退でした。それが今年の1月には全国でベスト8になりました。これはもちろん悪いことではありませんが、成績を重視して地域部活動が勝利至上主義に走ったのでは、部活動改革の意味がなくなってしまいます。教員の兼業は本来、苦肉の策でしかないはず。日頃の授業がおろそかになるようでは本末転倒です。谷田部東中ではそうならないよう、本人と相談しながら私がコーディネートしてきました。そうした危機感はつねに持っておく必要があります」