運動部だけじゃない、文化部もブラック化「本末転倒」な部活動の実態 文化とは、教員とは…忘れ去られるその「本分」

「授業準備の時間は、職員室から教室に向かう間だけ」
大坪圭輔氏は武蔵野美術大学で教職課程の指導をしながら、部活動の地域移行に携わる活動にも取り組んでいる。自身も美術教員として20年以上、中学・高校の教育現場を経験してきた。働き方改革が叫ばれる前から、部活動指導のあり方には疑問を感じていたという。

武蔵野美術大学教職課程研究室主任教授
1953年長崎県生まれ。武蔵野美術大学大学院修士課程修了。公益社団法人日本美術教育連合代表理事、公益財団法人教育美術振興会理事、国際美術教育学会(InSEA)会員、美術科教育学会会員。著書に『求められる美術教育』『工芸の教育』(ともに武蔵野美術大学出版局)などがある。現在は文化庁の地域文化倶楽部(仮称)創設に向けた検討会議の委員も務める
(写真:大坪氏提供)
「OECDの国際教員指導環境調査結果を見ても、日本の教員は世界一働いており、長時間勤務の改善も急務です。しかし、私が部活動の見直しをすべきだと考える理由はそれだけではありません」
きっかけは大坪氏が教員になって間もない頃、早々にやってきた。大学時代にバレーボールをしていたことから、大坪氏は新任校でバレー部の顧問を任された。ちなみに美術部を担当していたのは「国語の女性の教員」だったという。その学校には強豪の女子軟式テニス部があり、社会科のベテラン教員が顧問として熱心に指導していた。
「新人だったこともあり、私はただでさえ授業準備に追われていました。部活動と授業を両立できる教員はすごい、と思っていました」
大坪氏がその社会科教員に「どうやって授業準備の時間を捻出しているのか」と尋ねると、彼は「自分の授業準備の時間は、職員室から教室に向かうまでの間だ」と笑って答えたそうだ。大坪氏は「とてもショックでした」と振り返る。
「教師の本来の仕事とは、子どもたちにとって必要な授業をきちんと行うことのはず。それが部活動によっておろそかにされては本末転倒です。大学では教員を目指す学生にもそう伝えていますが、部活動が負担になって思うような授業ができず、わずか1~2年で教員をリタイアしてしまうケースもあります」
専門知識のない教員が部活動を指導することのデメリットも感じていた。
「教員免許を取得する際、部活動のマネジメントに関する単位はいっさいありません。指導の仕方を学んでいない教員が、授業の片手間に部活動の指導をしているのが現状で、これでは文化やスポーツの発展にも禍根を残すと思います。ひょっとしたら、私がバレー部の顧問だったために、優秀な資質を持つ生徒の可能性を潰してしまったおそれだってある。そう考えると、今も胸が痛みます」
世界一働く日本の教員だが、それでいて授業の準備や研究に割く時間の割合は極端に少ない。
「教員の時間はもっと、授業研究のために充てられるべきです。教員の本分はあくまでも子どものためにいい授業をすること。もし『部活動に注力しなければやりがいを得られない』と感じる教員がいるなら、やりがいを感じられる授業にするにはどうしたらいいかを考えてほしいのです」