公立高進学の新たな選択肢「地域みらい留学」で見えてきた興味深い変化 多様性高まり、受け入れる高校や地域も活性化
生徒だけでなく、受け入れる高校・地域も大きく変化
10代半ばにして親元を離れて寮などで生活をし、3年間あるいは1年間を見ず知らずの土地、新しいコミュニティーで過ごす。そう覚悟を決めた子たちだからこそ、その変化と成長には目を見張るものがある。
例えば、横浜市に住んでいた鈴木元太さんは、地域活動が盛んな島根県立津和野高等学校に進学した。放置竹林という地域課題に取り組む中で、町づくりやコミュニティーについてもっと深く学ぶために、東京大学に入学。コロナ禍で授業がオンラインになったことで津和野に戻り、母校でインターンをしながら、工学部都市工学科で住まいやコミュニティーのあり方、人々を支えるための建築についての探究を続けているという。
また、東京生まれの前田陽汰さんは、趣味である釣りが高じて離島にある島根県立隠岐島前高等学校へ。島で暮らすうちに、少子高齢・人口減少社会においては地域の活性化・存続がすべてではなく、人が幸せな人生の閉じ方を望むのと同じように、町もそこに暮らす人々が望むエンディングがあってもいいのではないかと思うようになった。そこで大学進学後、「まちの終活」という概念を掲げ、NPO法人や株式会社を立ち上げ、「右肩上がりを問い直す・死と日常の分断を溶かす」活動を展開しているという。

こうしたユニークな視点と行動力を持つ生徒を受け入れる高校、地域の変化も顕著だ。
「留学生たちが、リーダーシップを発揮して部活動や生徒会の長を務めることもよくあります。すると、地域の子たちは悔しいと思うんですよね。もともと地域にいる自分たちがもっと頑張るべきだと意識が変わるようで、『どんどん意見を言うようになった』『積極的に外で活動するようなった』『コミュニケーション能力が上がった』という話をよく聞きます。地元に興味がなく都会に憧れているような子も、留学生の目を通して地元の魅力を再発見するケースも多いようです」

また、堂々と校則に異議を唱えたり、アルバイト禁止など学校独自のルールに疑問を呈したりする留学生と接する中で、学校の先生たちも自分たちの価値観や多様性について考えさせられることが多いという。さらに地域でホストファミリー的な役を担う「まち親」も、自身の子どもが巣立ったことで薄れていた学校や教育問題に対する関心や張り合いを取り戻すことにつながっているそうだ。
「留学生の『この地域のこういうところが面白い』『卒業後もまた帰ってきます』といった言葉に、地域の人たちはとても元気づけられ、“自地域肯定感”が高まったという声をよくいただきます。後継者がおらず自分の代で終わりだと思っていた事業や技術について、若い世代が戻って来られるようにするためにどうすればいいのかを考えるようになるなど、町づくりの活動に参加する人が多くなったという地域も少なくありません」
生徒全体の「資質・能力の向上」が調査でも明らかに
地域・教育魅力化プラットフォームでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で、高校魅力化の効果検証も行っている。その第1弾として2019年11月、地域みらい留学が始まる以前から高校魅力化に取り組んできた島根県の高校を事例に、社会・経済効果の分析結果を公表。高校魅力化により地域の総人口が5%超の増加、地域消費額3億円程度増加、高校魅力化に伴う町村の財政負担額の約1.8倍の歳入増効果があるという推計結果を明らかにした。
22年3月に発表した第2弾の調査結果では、地域みらい留学が、高校生の転入を誘発するだけでなく、中学生以下の子がいる世帯の転出抑制・転入増加に寄与している可能性を示唆。