フェイスブック 若き天才の野望 5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた デビッド・カークパトリック 著 滑川海彦、高橋信夫 訳(TechCrunch Japan 翻訳チーム)/小林弘人 解説~時代の寵児の「公式社史」
2012年に上場を計画しているといわれるフェイスブック。その予想時価総額は4兆円とも5兆円ともうわさされる。それが真の企業価値を表すものか、あるいは時代のあだ花なのかは、今後の会社の業績や顧客支持によって検証されるであろう。ズバリ、本書はフェイスブックの「公式社史」である。著者はフェイスブックの過去、現在の関係者多数(創業者を含む)に取材して書いているが、会社に敵対する人々から話を十分に聞いている様子はない。たとえば、和解金が6000万ドルほどになった、ある訴訟などは特定されていない。
1300人の社員の平均年齢は31歳。株式の約24%を保有する(議決権はさらに多いと推定される)創業者のザッカーバーグCEO自身が20代である同社には、若さと個人情報の透明性に対する絶対的確信がある。
「人の信用を得るためには善良である必要がある。かつては企業に善良さを求める人などいなかった。それが今変わり始めている」という創業者の言葉を信じるかどうか。「フェイスブックがスイッチを押せば、誰でも、いつでも即座に消滅させることができる」と著者が「情報通」の言葉として引用している警句はフィクションではない。
元幹部マット・コーラーの以下の言葉が印象的だ。「5年もすればフェイスブックの中にいるのか外にいるのか区別がなくなる。人とコミュニケーションをとる場合には必ず付いてくる」。そうした存在にフェイスブック(そしてほかのSNSも)がなりつつある現代において、プライバシーの問題は深刻だ。ある消費者保護サイトは「永久に手放していいと思えないものは決してアップロードしないこと、なぜならそれはフェイスブックのものになるから」と警告を発している。
削除した写真やメッセージまでフェイスブックに使われるとなるとこれは厄介だ。自分の妻が笑っている写真付きのデートサイトを偶然発見した夫の驚愕のエピソード(広告会社の非とされているが)などは、こうした個人情報に関する危険が他人事ではないことを証明している。
マイスペースやリンクトイットなど、ほかのSNSと違い徹底した実名制を採用したことが、安心して参加できるネットワークとして認知された一つの理由とされている。逆に各種メッセージの発信先が個人として特定されるという恐ろしさもある。フェイスブック社には登録情報やサイトでの交信はすべて筒抜けというわけだ。その点で著者が意図したかどうかわからないが、第10章「プライバシー」は本書の白眉となっている。
David Kirkpatrick
『フォーチュン』誌で長年にわたりインターネットおよびテクノロジー担当編集主任を務める。アップル、IBM、インテル、マイクロソフト、サンをはじめ数多くのテクノロジー企業の特集記事を執筆。フォーチュン・ブレーンストーム会議を創設。
日経BP社 1890円 525ページ
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