スポーツ庁シンポジウム、部活の地域移行で「日本のスポーツ」が一変する訳 運動部活動の検討会議、提言案の実現に課題も
友添氏も「日本で定着している『スポーツをするのは“ただ”』という意識を転換し、地域のスポーツ指導者を職業として確立しなければならない」と強調した。研究委託費を受けた実証研究モデル地域のスポーツ団体からは、会費収入だけでは人件費を賄えないという意見も多いとして、長期的な財源の手当てを考える必要があるとした。
実際、地域スポーツ団体は指導者の確保に苦慮しているのが現状だという。そのため、「結局は教員が指導せざるをえなくなるのではないか」といった懸念も根強い。

奈良県生駒市 スポーツ振興課長
(写真:「運動部活動の地域移行に関するオンラインシンポジウム」より)
生駒市スポーツ振興課長の西氏は、市内の8中学校、約70の部活動に必要な指導者数を試算したところ150~200人になったという結果を示して「すべての指導者を地域の側で用意することは難しいという危機感を持っている」と語り、現在の学校部活動の顧問で、引き続き指導を希望する教員に、地域人材として活躍してもらうことが不可欠という認識を示した。
内田氏は、地域移行しても指導の担い手を含めた中身が変わらず「学校から地域への看板の掛け替えだけになってしまうことがあってはならない」と訴えた。一方で、部活動指導を望む教員も一定数いるため、そうした教員が任意で、地域部活動の指導を担える体制を整えることを求めた。検討会議も、地域の部活動指導を望む教員には、兼業兼職の申請を行ったうえで有償で指導してもらうことを提言案に盛り込んでいる。
友添氏は、学校部活動を指導する教員の半数近くが、その競技の経験がなく、有効な指導ができていない可能性を指摘。上達したいという子どもの思いに応えられずにスポーツ愛好者を減らしてしまうことを危惧した。また、過去に学校運動部の指導者による体罰など不適切な指導があったことにも言及し、「地域運動部の指導は、高いコンプライアンス意識を備え、公的な資格を持った指導者が望ましい」と述べて、改革集中期間中の指導者育成に注力するように求めた。
スポーツ文化の改革も必要に
学校部活動と地域部活動の文化の違いについても議論があった。
内田氏は「中学生のチームで、大会優勝を目指して3年間、頑張る」という学校部活動に対して、地域部活動は「世代の異なる人々と触れ合う中に楽しさを見いだし、スポーツを継続することを重視することになり、文化のあり方が根本的に見直される」と、競技性に重点を置いて勝利を追求するスポーツから、生涯スポーツへの文化の転換を訴えた。
内田氏は大学教員として「学生が高校まで頑張った部活動を、大学でやめてしまうことを残念に思っていた」が、社会人になってからも地域でスポーツを続け、その費用負担が、子ども世代の活動を支える持続可能な形になることを期待した。

柔道家・シドニー五輪金メダリスト
(写真:「運動部活動の地域移行に関するオンラインシンポジウム」より)
中学校の柔道部と、地域の道場の両方での活動を経験してきた柔道家でシドニー五輪金メダリストの井上康生氏は「学校では学業との一環で成長させてもらい、道場では多様な社会人の方に稽古をつけてもらい、さまざまな話をする機会を得てきた」と振り返り「学校部活動と道場、それぞれによさがある。学校部活動のよき文化も保って地域部活動につなげてもらえれば」と語った。