9年連続人口増、明石市の泉房穂市長「子ども予算3倍必要」と考える理由 「教育権限の移譲」でいじめや不登校も減らせる

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2つ目の「カネ」ですが、日本は諸外国の半分以下しか子どもの施策にお金を使っておらず、ここは大きな問題です。せめてもの思いで、私は市長に就任した際、子ども関連予算は従来の2倍以上に増額しました。それでも諸外国に比べれば少なく、ようやく欧州並みに近づきつつあるという状況です。

3つ目の「ヒト」については、子どもに寄り添う人材の確保や育成ができていません。明石市が子ども施策に力を入れられるのは、子どもを担当する職員数を3倍以上に増やしたからです。中央省庁から出向していただく人材だけでなく、全国公募で法務職(弁護士)、福祉職、心理職、DV相談員などの専門職や企業出身者など、多方面から有能な人材を常勤の正規職員として採用しています。児相職員の人材育成や学童保育の支援員の認定資格研修などにも取り組んでいます。こうしたことはほかの国では当たり前にやっています。

――とくに参考にしている国はありますか。

子ども施策はフランスをかなり意識しました。ケースにもよりますが、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーあたりも参考にしています。養育費の立て替えは韓国の制度を採用、市内すべての市立学校の女子トイレに生理用品を配備する支援(2022年4月開始)はニュージーランドをまねしました。私は海外の成功事例を制度化しているだけなので、失敗するわけがないのです。

明石駅前の人通りも増えた

――子ども関連の予算や担当職員数の増強という大胆な取り組みを、どうやって実現されたのですか。ほかの自治体でも可能だとお考えですか。

予算は公共事業費を従来の半分にして捻出し、人材は新たに採用した専門職以外は部署間の異動で対応しました。公共事業費を減らしたといっても欧州と同水準にして無駄遣いをやめただけ。市長や知事の権限の最たるものが予算編成権と人事権なので、首長がその気になれば実は簡単なことです。

ただ、それをやると公共事業に関係する企業や団体、急な異動を命じられた市役所職員などの強い反発に遭います。そういうことも含め、腹をくくって取り組むのが市長や知事の役目です。

――コロナ禍でも、個人商店や学生に上限100万円を緊急支援するなど、独自に20の支援策を迅速に展開されました。

溺れている人がいたら何が何でも助けるんです。助けるという結論ありきで方法を考えて実行するだけ。そのため、街を歩いて話を聞くほか、市長への意見箱に届く毎週50~100通の意見もすべて目を通しており、市民の声に基づく運用変更も頻繁に行っています。

教育の権限があれば欧州並みの環境をつくれる

――教育支援については、どのようなお考えをお持ちですか。

市長に与えられていない権限に3つの分野があります。警察、医療、教育です。警察と連携ができないので児童虐待や消費者被害の救済などは臨機応変には対応できません。医療についても、コロナ禍でもどかしい思いをしました。

教育も同様です。例えば過去に教員の不祥事が発覚した際も、「私に調査権限や教員に対する指導権があれば、迅速に再発防止策が取れたのに」と思いました。

教育の権限を県や教育委員会から移譲してもらえれば、欧州並みの教育環境はつくれます。いじめや不登校を減らせると思いますし、もっとインクルーシブ教育に力を入れたい。ヤングケアラーや障害のある子、医療的ケアの必要な子などに、より手厚い教職員の配置を行うなどいろいろ可能になりますが、今はできる範囲のことを全力でやるしかありません。

明石市独自の施策としては、きめ細かな教育を実現するために、2016年度から全28市立小学校の1年生で30人の少人数学級を導入、21年度からは兵庫県内初となる市内12中学校1年生の35人学級を実施。いずれも新たに必要となる教員配置の費用は本市が全額負担しています。また、21年度は全国初となる全学年少人数学級の小中一貫教育校も開設しました。

一方、子どもの成育過程はさまざまなので、学校には行っても行かなくてもいいと思っています。なので、学校外の居場所づくりにも力を入れています。21年度は、無料で利用できる公設民営のフリースクール「あかしフリースペース☆トロッコ」を9月に開設しました。NPO団体との連携で実現したもので、全額公費で助成しています。

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