全中学校の設置目指し、岡崎市が校内フリースクール「F組」を増やす訳 長期欠席者の増加率抑制、減少傾向の学校も
教室そのものも、通常学級と同じように開設する。美川中では、校内に適応指導教室があったときはなるべく教室の様子が見えないように廊下側の窓のカーテンを閉めていたが、F組ではそのカーテンを取り外した。「生徒たちも2週間ほどですぐに慣れました。堂々とここへ来ていいんだという雰囲気づくりが大事なんだなと実感しています」と安藤氏は話す。
「コト」の改革とは、個を大切にした教育課程や個別支援計画によるサポートだ。例えば、基本的には1日の取り組みや時間割は生徒自身が決める。
また、生徒の世界観を広げる支援やキャリア教育も行う。美川中は昨年度、地元企業や地域人材の力を借りてプログラミングやUVレジン作りなど各種ワークショップを実施。長期欠席の経験があるプロのハープ奏者を招き、演奏会と自らの体験を語ってもらう講演会も開いた。

「こうした毎日の自己決定や、社会的自立につながるような機会により、生徒たちの自己肯定感は育まれているのではと思います」(安藤氏)
課題は理念の浸透、すべての学級に多様性を
しかし、いくら環境を整備しても、在籍学級との段差意識は簡単にはなくならない。「みんなが受ける授業を受けずに楽をしている」、アイスブレークの一環として行うゲームを「遊んでばかりいる」と捉える教員、生徒、保護者は少なからずいる。そのため、同市は「人の心」の改革にも取り組む。本人、職員、周囲(生徒、保護者、地域)の意識を変えるということだが、とくに大切なのが「校長による理念の浸透」だと小田氏は言う。
安藤氏の場合、F組を開設した4月の段階から、職員室や入学式の式辞で趣旨や理念を伝え、「校長室だより」は保護者だけでなく地域の民生委員にも配布するなど周知を徹底した。F組は「心の保健室」だという認識を内外で共有することを意識した結果、F組を利用する生徒にはさまざまな成長が見られたという。

岡崎市立美川中学校校長
岡崎市立小中学校やミュンヘン日本人国際学校、国立大学法人愛知教育大学附属岡崎小学校などの勤務や校長を経て、2019年度に岡崎市教育委員会 教育相談センター所長としてF組の立ち上げに従事。21年度より現職
例えば、コロナ禍で新入生説明会が開催できなかった際は、学校紹介ビデオをF組が意欲的に制作。在籍学級になじめなかった体験に基づき「うまく学校生活を送るコツ」なども盛り込んでくれたという。
また、共に時間を過ごした3年生の卒業に際しては、音楽が得意な在校生が中心になり、オリジナルの歌をプレゼントした。作詞、作曲、演奏、歌唱、動画制作とすべて在校生が担当したという。