教育専門家10人が、学校関係者のために厳選「GWに読みたい」お薦めの本 個別最適な学び、哲学、部活動、学校改革など
感情にふたをしてしまうのは入院している子どもたちに限らないと話す著者の副島氏は、そのふたを外すために、院内学級が安全で安心な場所と感じてもらえるようにしているという。
本音を受け入れてくれる大人がいると、子どもは安心する。そうした環境をつくるのに必要なのは何なのか。子どもがその子らしく、誰もが大切にされる学校、「みんなの学校」をつくるヒントが、この1冊からも学べるかもしれない。
9.『リストラなしの「年輪経営」』(著:塚越 寛)

湘南学園 学園長
(撮影:梅谷秀司)
子どもだけでなく、教員が働きやすい学校をつくる際も、組織のトップである校長の役割は重要だ。「働きやすい」と教員が口をそろえて語る学校、人間関係が良好な学校には、学校全体を俯瞰して課題に対応したり仕組みを変えたりする校長が必ず存在する。
やるべきことが山積みの学校の中で、教職員たちが疲弊せず、子どもたちと共に学びを深めていく風土づくりを醸成するにはどうすればいいのか。今年4月、湘南学園の学園長に着任した住田昌治氏は、これまで公立学校の校長としてさまざまな実践を行ってきた。
ユニークなのが、「教職員を管理しない」をモットーにしていること。教職員の主体性に任せ、トップダウンの「コントロール型」とはまったく異なるサーバント・リーダーシップ・スタイルの「マネジメント型」で学校運営に向き合ってきた。
そんな住田氏が、自身が影響を受けた本として挙げたのは『リストラなしの「年輪経営」:いい会社は「遠きをはかり」ゆっくり成長』(著:塚越寛/光文社)だ。その理由について、こう語る。
「いい会社は『遠くをはかり』ゆっくり成長、『社是は、社員を幸せにすること』。私が校長1年目に単身訪ねた伊那食品の塚越寛さん。私は、塚越さんの年輪経営を学校経営に生かし、教職員が幸せになる学校づくりをしてきました。その結果、子どもたちが幸せになる学校づくりにつながりました。ぜひ、多くの学校関係者の方に読んでいただきたいと思います。企業経営の神様から学ぶことで、時間はかかりますが、学校が心地よい空気に変わります。子どもの幸せは、教職員の幸せからです」
本書は、創業以来48年連続増収増益という実績を打ち出した経営者の企業戦略をまとめたものだ。著者の塚越寛氏は、「会社は社員を幸せにするためにある」とし、天候の悪い年でも成長を止めない「年輪」のように、ゆっくりでもいいから着実な成長を目指しているという。学校運営の手法に定評のある住田氏が、教育書ではなく経営書を選書したのは意外だったが、「理想の組織のあり方」と、そのための経営手法には学校も企業も共通するところがあるのだろう。
10.『多様性の科学』(著:マシュー・サイド)

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表
(写真:妹尾氏提供)
こうした組織を考えるうえで、今最も必要だといわれるのが「多様性」だ。多様な人材を受け入れ、それぞれが能力や個性を伸ばして活躍できる組織を目指す「ダイバーシティー&インクルージョン」を掲げる企業も増えている。
なぜ、多様性が求められるのか。変化の激しい社会に対応していくには、できるだけ多様な能力、価値観を持った人材が集まっていたほうがいい。みんなが同じ枠組みで物事を見ていたら集合知が得られないからだ。
全国各地の教育現場で講演、研修、コンサルティングを手がける教育研究家の妹尾昌俊氏が、『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』(著:マシュー・サイド/ディスカヴァー・トゥエンティワン)を薦めるのにも、ここに理由がある。
「なぜ画一性の高い集団ではまずいのか、大きな失敗を犯してしまうのかについて書かれた本です。学校教育について扱ったものではありませんが、学校も同じだと思います。ワンマン校長の経験と勘による学校運営や、忙しいからといって議論やアイデア出しを軽視する職場では、不確実性の高いこの時代、危ないのです。多様性の高い教職員チームになっていく必要性を本書から学ぶことができます。同じ著者の『失敗の科学』も名著で、2冊続けて読むことをお勧めします」
本書では「なぜCIAは9.11を防げなかったのか?」「なぜ一流の登山家たちがエベレストで遭難したのか?」「白人至上主義の男が間違いに気づいたきっかけとは?」など、実際に起きたリアルな出来事をひもときながら、その失敗の背景に迫る。組織改革に役立つ1冊で、学校現場で応用できることも多いに違いない。
(注記のない写真:尾形文繁)
東洋経済education × ICT編集部
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