社会の改善に向け意識すべき「変化に対応するコスト」
評者/名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰
世界は経済学のモデルで説明できるほど簡単ではない、というのが本書の主張だ。なぜなら現実の世界にはモデルが見過ごしている多くの要素があるからだ。であるなら、事実の発見と実証分析が重要になる。
自由貿易は究極的には経済全体に利益をもたらすが、当然、負け組と勝ち組が生じてしまう。勝ち組から税を取って負け組に配れば、誰も損をせずに経済全体で利益が上がるとわかっているが、勝ち組がそれに応じるかは分からないし、実際これまでそうしたこともなかった。
また、誰が勝ち組で誰が負け組になるのかも、経済モデルが教えてくれるほど簡単ではなかった。なぜかといえば、人々は必ずしも変化に対応できるわけではないからである。
それはなぜなのか、どうしたらいいのかについては、著者たちのノーベル賞受賞の理由となったランダム化比較試験による研究が多数引用されている。プロジェクトの参加、不参加をくじ引きで割り当てることによりプロジェクトの効果を厳密に測定する方法である。
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