被害者に生かされないチェルノブイリ事故の教訓 インタビュー/前松本市長 菅谷 昭

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東電福島第一原発事故後、事故の「命への影響」を考え市政を行ってきた市長が退任した。事故から9年、自治体トップから見た原発事故とは。

すげのや・あきら 1943年長野県生まれ。信州大学医学部卒業。医学博士(甲状腺専門)。91年からチェルノブイリ事故の被災地での医療支援活動に参加。96年から2001年までベラルーシ国立甲状腺がんセンターなどで主に小児甲状腺がん患者の治療に当たる。02年長野県衛生部長。04年から松本市長。今年3月27日に退任。
3月末で4期16年の任期を満了、松本市長の職を退いた菅谷昭氏。同氏は1986年のソ連(当時)・チェルノブイリ原子力発電所の事故で放射能に汚染された地域の医療を90年代から支援しており、その活動ぶりは「奇跡のメス」として称賛されてきた。
市長2期目の2011年3月、東京電力福島第一原発事故が発生。放射能汚染という日本では前代未聞の事態に、自治体トップとして、また医師として事故被害への現実的な対処を呼びかけ、かつ実践してきた一人である。

──福島第一原発事故以降、原発事故の影響について自らの経験を踏まえて発言し、市政でも原発事故対策を念頭に置いた施策を実行されてきました。事故以降の日本を、どう見ていますか。

残念です。国難ともいえる事故が起きたのに、日本政府の事故に対する認識が極めて低い。将来発生しうるさまざまな影響への配慮や考察が足りていないのではないか。チェルノブイリ事故の教訓をあまりにも軽視しているようにしか見えません。チェルノブイリでは、30年以上経過しても、健康や環境への影響は続いており、収束したとはまったくいえません。

──市長在任中にも、ベラルーシを訪問しました。

2012年と16年に訪問しました。私がかつて支援活動を行ったゴメリ市は、チェルノブイリ原発から約150キロメートルの低濃度汚染地区。「低濃度汚染」でも放射線量が高くて、近隣の街では「進入禁止」の警告があちこちに表示されています。空間放射線量は1時間当たり0.4マイクロシーベルトの場所があるほどです。

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