生身の米国政治の体温を感じることができる
評者 慶応義塾大学環境情報学部教授 渡辺 靖
本書は2016年の米大統領選挙でドナルド・トランプ候補に敗れたヒラリー・クリントン元国務長官の回顧録。米国ではミリオンセラーとなった。
大統領選を勝ち抜くには豊富な資金力のみならず、広い国土を遊説に飛び回る強靭な体力、そして候補者討論会や中傷合戦に耐え抜くタフな精神力が必要だ。しかも予備選を含めると約2年間の長期戦。それゆえ敗れし者はしばらくの間茫然自失状態に陥るという。
ましてや、メディアも専門家も勝利を予測し、自らも勝利演説を入念に準備していたクリントン氏にとってのショックは計り知れない。ましてや排外主義的な暴言を吐き続けたトランプ氏に敗れた屈辱は想像を絶する。選挙後は「毎朝ニュースを読みながら、かさぶたを剥がされるような思いを味わった」という。
敗北演説直後にはジョージ・ブッシュ(子)元大統領から励ましの電話があったことも本書で初めて知った。党派対立が凄まじい昨今、民主党のクリントン家と共和党のブッシュ家が親密な関係にあることにホッとする。ブッシュ氏の一言でトランプ氏の宣誓就任式に参加することも決めたという。本書にはこうした舞台裏のやり取りが溢れており、生身の米国政治の体温のようなものを感じることができる。
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