「勢力争い」を超えた正統派地政学を提示
評者 東京外国語大学大学院教授 渡邊敬貴
評者は地政学分野の多くの邦語書籍はパワーポリティックス的な「勢力争い」を地政学と言い換えているに過ぎないと考えるが、本書はきちんと歴史的学説を踏まえて、各地域の戦略的重要性の相対化が行われている点で本格的な地政学の業績であるといえよう。評者は地政学とは、利害関心の異なるそれぞれの地域の戦略地図を整理し、相対化することであると思っているので、ようやくそのような「正統派地政学」の書物が出たことを喜びたい。
冒頭第1章の「地図から見える世界」は、太平洋の中の日本を真ん中に置く地図を見慣れている一般読者には目新しいのではないか。日本海を中心にした地図では日本列島は「日本海という湖」の中国や韓国の対岸になる。沖縄まで含む日本列島はまさに中国の海への道の「防波堤」でもある。新しい視点から世界を見る必要性が一目瞭然に理解できよう。
また本書ではランドパワー、シーパワーの視点からの地政学の古典の解説が要領よくされている。歴史的な学説にのっとっているだけに、米ロ中などの大国の地政学的な位置や戦略の歴史がよくわかる。
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