金融目利き力の復活、資産管理の重要性を説く
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
金融業の本来の役割は、家計貯蓄を設備投資や住宅投資など新規の実物投資に仲介することだ。ただ、現在はそうした融資はわずかで、大半は不動産や住宅など既存資産の購入に充てられている。おまけに米英の大手金融業の主力業務はもはや融資ではなく、証券化された金融債権やデリバティブのトレーディングだ。
トレーディング業務に経営資源を割き、新たな付加価値創出につながる投資機会の掘り起こしを怠るから、各国の成長トレンドの回復が鈍いのではないか。本書は、財政金融の世界的な研究者があるべき金融業の姿を論じたものだ。
トレーディングに注力するのは、高収益と高ボーナスが可能になるからで、顧客にメリットがあるからではない。多大なリスクテイクが可能なのも、家計の預金を抱える金融業は潰さないという政府の暗黙の保証があるからだ。その結果、金融仲介業務の上部に複雑でリスクの高いトレーディング業務を組み込む歪(いびつ)な構造が生まれた。世界金融危機では、リスクに耐え切れず上部構造が崩壊、土台となる金融仲介業務も潰れかかった。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待