反動を理解してこそ現代が理解できる
評者 慶応義塾大学環境情報学部教授 渡辺 靖
「保守」と聞くと過去に恋々とし、回帰を志向しているイメージがある。
しかし、近代保守主義の原点であるエドマンド・バークによれば保守主義とは過去を参照し、急進的な変化に懐疑的でありながらも、漸次的な改良を目指す態度を指す。
進歩を否定し、過去を美化し、その復古を求めるのは「反動」であって「保守」ではない。「反動」は近代(科学主義、合理主義、啓蒙主義など)そのものに対して否定的だ。
本書はその「反動」に関する思想的系譜と今日的位相を探った意欲作。著者はコロンビア大学で教鞭をとるリベラル系の思想家。哲学や宗教と政治権力の関係について、長年、鋭い論考を発表し続けてきた。
近代に抗う反動の精神は、当然ながら、現代世界においては分が悪い。それゆえ本書のタイトルが示すように「難破」を宿命づけられた精神でもある。
しかし、それでも反動の精神が沈み果てることはない。
それどころかトランプ現象からルペン現象、さらにはイスラム過激派の隆盛に至るまで、現代世界は反動の精神で溢れているかのようだ。ならばそれを時代錯誤の退廃した精神と一蹴する前に、なぜそれがかくも魅惑的であり続けるのか理解する必要があろう。
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