三品 和広 神戸大学大学院教授
経営の戦略は実に奥が深い。いかなる施策も思いがけない副作用をもたらすことがあるうえに、戦略以外の変数や純然たる偶然までが結果に色濃く影を落とす。それゆえ、事例をなぞっただけで戦略と業績を結ぶ因果関係が像を結ぶことはまれで、戦略はノウハウより知恵の領域に属すると考えたほうがよい。
私自身は、各種の資料から複雑な因果関係を解きほぐす作業を仕事としており、滅多に「戦略本」を手に取ることはない。ただし、頭のさびつきを防ぐために雑読を絶やさないよう心掛けているので、ここではその一端を紹介してみようと思う。下手なノウハウ本を読むより、よほど思考を触発してくれるはずである。
最初の5冊は、戦略の本質に関する備忘録として役に立つ。筆頭格の『戦略的思考とは何か』は、戦略といっても経営ではなく国家の戦略を論じた本である。外交官の道を歩んだ著者が鬼籍に入って1年余り。4章と5章を念入りに読み返して、戦略の超長期性と基本選択の重要性を心に焼き付けておくと、戦略と戦術を混同することはなくなると思う。
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