安田善次郎 果報は練って待て 由井常彦著
明治金融史の主役であり安田講堂で知られる安田善次郎の伝記は数冊あるとはいえ、戦前の重要資料『安田善次郎全伝』『同伝記資料』ばかりでなく、ほとんど利用されずに保管されていた善次郎の「手控(てびかえ)」や「日記」という原資料を駆使したことで、安田財閥研究の第一人者による屈指の善次郎伝が生まれた。個人的な手書き文書を読み解くのはたいへんな難事だったろうが、それだけに新たな事実、特に善次郎の行動と決断の背後にあるものが明確になった。
商人としての立身出世がせいぜいだった男が、日本を代表する銀行家として政財界から頼りにされるところまで上り詰めるまでの生き様、家族関係、事業推移。その記述は詳細を極めるが、全国各地の銀行救済での活躍ぶりが堅実無比の自行経営の手法と一体であるくだりは重要だ。製釘、紡績、造船など、工業部門での悪戦苦闘の跡をたどっているのも、人間味を浮き彫りにして興味深い。(純)
ミネルヴァ書房 3150円
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