終わらざる夏 上・下 浅田次郎著

終わらざる夏 上・下 浅田次郎著

千島列島の最北端、カムチャツカとは海峡をはさんでわずか12キロの占守(シュムシュ)島。昭和20年8月18日、この小さな島へ赤軍が上陸し激戦が展開された。この知られざる不条理な戦争へ市井の人々が直接間接どのように巻き込まれていったか、市民の目線から描かれた戦争の悲劇である。にわか動員された男たちを軸にその母や妻や子や友人たちがどう思い、悩み、行動したか、重層的に物語は展開し、たった2カ月ほどの話ながら大河小説の趣さえある。

ソ連兵の戦闘詳報とモノローグによって語られる戦争場面が秀逸で、兵士の死の瞬間がこれほど余韻をもって表現されたことはないのではないか。45歳にもなる夫や父を戦場へ引っ張り出された家族愛を描いて、戦争の愚かさと悲惨さが語り尽くされる。米文学に情熱を燃やす出版社社員、医専出の患者思いの医師、軍神に祭り上げられた軍曹をはじめ人間味あふれる登場人物が人間ドラマの魅力を幾重にも高めている。(純)

集英社 各1785円

  

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