教員の負担軽減阻む「聖職者メンタリティー」の罠 内田良「働き方改革は『諦める挑戦』が必要」
最初に行った教員は寄せられる感謝の声をうれしく思い、教師冥利に尽きるかもしれません。残業が増えても喜びや感動によって報われてしまうので、本人も周囲も逃れられなくなっていく。
しかし過剰サービスは、ほかの教員にとってはさらに時間外労働が増えるという、苦痛でしかない可能性もあります。すでに多くの教員が倒れています。聖職者メンタリティーに巻き込まれず、恨まれてもブレーキをかける存在が必要ではないでしょうか。それができるのは、現場の管理職しかいません。
さらに文部科学省や教育委員会など外部の圧力がかなり必要だと思います。例えば部活動は週に3日までにする、修学旅行を1泊にするなど、相当な外圧をかけないと、現場の教員が変わることは難しいのではないでしょうか。
――変形労働時間制の足元の影響はいかがでしょうか。
変形労働時間制はほとんど現場に入ってきていませんが、現場からは反対の声が多いです。一方で、勤務時間の管理は多くの学校で始まっていて、教員が時間を意識するようになったことは前進です。ただ、いわゆる給特法があるため、お金が絡まないから勤務時間の管理はずさんな印象で、業務が減るところまでには至っていません。
教員は、学校に子どもたちがいる間は時間割どおりにきちんと活動を進めます。しかし、子どもたちが帰った途端に“究極の労働者”から“究極の聖職者”になり、時間の管理をせずに働いてしまうから不思議ですよね。でも、教員は子どもの下校までは時間割どおりにやれているわけですから、上の立場の人によるマネジメントが重要になると思います。
――文科省や教育委員会、保護者に求めることはありますか。
明らかに不要な業務は積極的になくしていってほしいです。教員免許更新制廃止の表明は大きな動きでしたね。「全国学力・学習状況調査」の点数を上げるための施策を見直すなど、行政が減らせる部分はまだまだあります。あまり知られていませんが、部活動を平日は週3日までという運営に踏み切った自治体なども出てきています。
最近では教員の業務の多さを理解する保護者が増えています。派手な行事や式典は期待しておらず、その分もっといじめの対応をしてほしい、もっと授業に集中してほしいという声も実際にあります。学校は勝手に「多くの保護者が期待している」と捉え業務を減らせずにいる面があるので、保護者の皆様は過剰サービスだと思う点があれば、ぜひその声を学校にもっと届けてください。それが教員の業務軽減にもつながっていきます。
みんなが元気に笑顔で集うために「諦める挑戦」も大切
――働き方改革を進めるために、若い教員は何ができるでしょうか。
若い教員がいちばん長時間労働に巻き込まれていますが、先輩が大勢いる中で声を上げることはなかなか難しいことです。でも「現状の働き方はおかしい、変えたい」という気持ちを持っている仲間は、ほかにも必ずいます。部活の顧問も2人に1人はやりたくないと思っているのですから。同じ考えの人を見つけて、ぜひ意見交換を行ってください。
集団において、とくに 「子どものために」という意見は、たとえ賛成が少数だとしても正解として通ってしまいがちです。だから、絵本『スイミー』(レオ・レオニ著)の魚たちのように、複数人が同時に声を上げることが効果的だと思います。その力は「#教師のバトン」プロジェクトで発揮されたと思います。