初の東大推薦挑戦で3名合格「山東探究塾」の裏側 山形東高「授業中心主義」崩さず探究を日常化

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探究型学習や探究活動の導入で教科・科目の授業も変わった。「私は世界史を担当していましたが、授業中に『ああ、なるほどね』『だから英語でこう表現するんだ』など、他教科の既習内容に思い当たるような発言が生徒から多く出るようになったのです。以前は教員から仕掛けなければ他教科の理解が深まるようなことはなかったので、その変化に驚きました」と、森氏は話す。

「だんだんといろいろな境目がなくなっている気がします。先生は従来の講義形式のよさと探究の手法を組み合わせた教科・科目の授業をしているし、生徒たちも『数学だと思っていた課題が、探究してみたら化学だった』ということを多々経験する。自然と教科横断になっていて、部活も学校行事も含めすべての活動がPDCAサイクルを取り入れた探究型に変わってきています」(佐々木氏)

進路に変化、推薦入試でも勝負可能に

2021年3月に卒業した1期生の進路を見ると、生徒が選んだ研究テーマと、大学の学部選択がほぼリンクしているそうだ。研究のテーマ設定に当たり、「進路に関わるもの、好きなもの、適性に合うもの」という3条件のうち、必ず1つは満たすことをルールとしている結果だという。

「これまでは漠然と東大や東北大を目指す生徒がほとんどでしたが、1期生は『この大学でないと、この研究ができない』という理由で学部を選択した生徒が多かった」と、佐々木氏は言う。とくに国公立大学医学部医学科と北海道大学の現役合格者はそれぞれ14名、11名と従来よりも大幅に増えたという。

さらに、「部活と授業中心の学校だったので、ほかにアピールできるものが少なく出願すらできなかった」(森氏)という東京大学の学校推薦型選抜に1期生が初挑戦。見事、探究科の3名が合格を果たした。「以前から一般入試での東大合格者は何人もいましたが、推薦でこんなに受かると思わなかった」と佐々木氏は明かす。

3人は何を研究していたのか。工学部に進んだ生徒のテーマは、温暖化解消。山形市の用水路付近の温度が低いといわれていることに着目し、計測器を開発して実際に検証した。経済学部に合格した生徒は、色と記憶力の関係について数的解析を展開。その研究はシンガポール研修での英語発表会で2位を獲得した。もう1人の生徒は、探究部という部活の化学班で1年次から養ってきた理系的研究力をアピールし、理学部の合格を勝ち取った。

このほかにも総合型選抜を利用して京都大学やお茶の水女子大学、筑波大学などに入学した生徒もおり、受験の仕方が多様化したという。

「山東探究塾の活動を通して、生徒たちが自分のやりたいことや強みをより自覚できるようになった証しです。今後はプログラムを精査し、地域活性や協力者の利も意識しながら持続可能な探究活動に進化させていきたい」と、森氏は語る。

山形東高の探究活動は文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」に指定されており、21年度が最終年度となる。22年2月、3年間の成果が発表される予定だ。

(文:田中弘美、写真はすべて山形東高等学校提供)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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