学校批判は的外れ「ブラック校則」なくならない訳 ルールメイカー育成プロジェクトの可能性
菅野氏は11年の東日本大震災をきっかけに横浜から岩手県大槌町へ赴き、現在はカタリバのディレクターであると同時に、県立大槌高等学校カリキュラム開発専門家、大槌町教育専門官として教育行政の支援を行っている。具体的には震災で人口が流出した学校を復興するために、職員室に週5日勤務しながら、探究の学びなど学校教育を魅力的にするための新たな設計に携わる。こうした取り組みを経済産業省が評価し「未来の教室」実証事業として採択されたことで、今回カタリバで菅野氏が新たにルールメイカー育成プロジェクトを担当することになった。そんな菅野氏は、ブラック校則についてはもっと大きな問題があると指摘する。
「私たちが感じるのは、ブラック校則だといって、社会が学校を批判することが正しいことかどうかということなのです。時代にピントが合っていない校則がそのままになっているということは、たしかに学校内の課題ですが、一方で、これまで学校側にさまざまな要請やクレームをしてきたのは、社会の側であるという点も見逃せないと考えています。学校側は社会の批判を避けるために、どうしても厳しいルールを作らざるをえなくなってしまった。そうした背景も考えれば、問題は学校だけでなく、社会の側にもあるのではないか。そのような広い視点で考えなければ問題は解決しないと考えています」
「こんな学校に通いたい」から校則を作っていく
校則を見直す際、例えば生徒側がブラック校則だと批判して変えていく方法もある。しかし、この場合、「学校VS生徒」という対立構造が生じる恐れがある。そのため、カタリバでは違うアプローチを採っているそうだ。
それは、学校現場にいる当事者たちが集まり、議論をして問題を解決していくことで、校則を見直していく方法だ。ルールメイカー育成プロジェクトでは、校則を見直したいと考えている学校に出向き、校内で対話を重ねる文化をつくり、校内で継続できる体制を整える、その一連のコーディネートを行う。
現在、カタリバでは、「ルールメイキングを行いたい」という学校を独自に募集。名乗りをあげた全国の中学高校11校に対して、社会人経験があり、実績のある外部のルールメイキングコーディネーターを派遣し、それぞれで校則見直しのプロジェクト推進をサポートしている。
それらの実施校の中から、全国の学校で参考になるような事例をまとめて、教材化する取り組みも行っている。

(写真:カタリバ提供)
「教材の内容についても、カタリバでは対話を大事にしているので、生徒たちが自分の意見を議論のテーブルに載せて話し合うにはどうすればいいのか、そのファシリテートのやり方や、校則のメリット、デメリットを考えていく方法論などを提供していきたいと考えています。いわば、生徒たちに気づきを与えるためのツールを提供しようとしているのです」
プロジェクトを開始してから2年近く。具体的にどんな動きがあったのだろうか。
「例えば、ある学校で、生徒たちが校則を変えたいと先生に提案したとき、生徒たちは、自分たちがわがままと思われるかもしれないと危惧したそうです。彼らが実際に変えたかった校則は靴下の色を自由に選べること。そして、ツーブロックを解禁してほしいということでした。生徒から相談を受けた私は、それならば、いきなり校則について先生に提案するのではなく、こんな学校をつくりたいという提案をしたらどうかという話をしました。そこで出来上がったのが『生徒宣言』です。誰もが通いたくなる学校をコンセプトに『生徒宣言』を作り、その中に校則の変更について盛りみました。そうすることで、先生たちと校則検討委員会を立ち上げることになり、生徒と先生が議論をする場が生まれたのです」