目的が見えない「全国学力テスト」CBT化の行方 全体の学力レベル測定に全員調査は必要なのか
全体の学力レベルを測ることが国の学力調査の主目的と考える川口氏は「国レベル全体の学力を測るなら、統計学的な抽出調査のほうが望ましく、コストをかけて国が悉皆調査をする意味がない」という立場だ。児童生徒個人の学力や到達度を測りたいなら「学校の教員が100点満点のテストを作って実施すれば済む」と語る。しかし、教育指導に役立てるという目的も掲げられて、これまで悉皆調査が行われてきた。
現在の日本の教育と、IRTを使ったCBTは相性が悪い
CBT化が、紙ベースのテストを単純にコンピューターベースにするだけなら話は比較的簡単だが、せっかくCBT化するのであれば、IRTによってCAT を導入して先進的なテストにしたいという期待は強く、CBTとIRTは分かちがたい関係にある。しかし、IRTを教育指導に活用しようとしても「現在の日本の教育と、IRTを使ったCBTは相性が悪い」と川口氏は指摘する。
相性が合わない1つの理由は、IRTを利用すると得点が算出される過程が複雑になるからだ。わかりやすい100点満点のテストに慣れ親しんだ学校現場で理解されるためには、学校現場のリテラシーが必要になる。
もう1つの理由は、受験者の回答に応じて難易度の異なる問題を出題するCATでは、受験者の学力に応じてテストの難易度を変更し、受験者が小学4年生であっても、正答できるなら小学5年生や小学6年生の問題も解いてよいという状況が生まれる。
これは、決められた能力を確実に身に付けさせようという学習指導要領の考え方にはそぐわない。さらに、異なる内容のテストの結果を比較可能にするというIRTの利点を生かすには問題を原則非公開にする必要がある。これも、テストに出題された問題を復習に利用することが多い日本の教育と相性が悪い。IRTを利用するなら、その特性とデメリットを十分に理解したうえで導入する必要がある。
ワーキンググループは悉皆調査について、経年変化分析調査の翌年の25年度以降、できるだけ速やかに中学校から導入することを提言した。文科省は今秋、開発を進めている学びの保障オンライン学習システム(MEXCBT:メクビット)を使って、学力調査のCBT化に向けた試行・検証作業を始める。一部の自治体もCBT化の試行を始めるが、学習指導要領、学校現場とIRTとの整合性については注意する必要がありそうだ。学力調査のCBT化は、まだまだ多くの解決すべき課題が残されている。
(文:新木洋光、注記のない写真はiStock)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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