小学校におけるICT教育の現在地 専門家が見る現状と課題

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こうした背景を踏まえて提唱されているのがアクティブラーニングです。

アクティブラーニングの根幹である「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び」の実現に必要なのは、それぞれの児童が学んだこと・考えたことのアウトプットです。その手段として、たとえばスライド作成や動画撮影・編集、それらのデータをクラウドで共有するなど、ICTが役立ちます。

加えて、よいアウトプットのためにはインプットが必要です。授業や教科書、あるいは図書館でのインプットに加え、幅広い知識を得るにはインターネットも情報源として不可欠です。情報の取捨選択ができる力を養うことも含めて、インターネットを活用したインプットは現代では必須といっても過言ではないでしょう。

こうしたことを不自由なく行うには、最低でも1人1台のデバイスと満足な通信環境が必要です。これが文部科学省によるGIGAスクール構想につながっています。

国内の事例

国内を見渡すと、学校単位ではうまくICT教育を取り入れられているケースが各地で生まれています。しかし、自治体の単位での成功事例はまだ少ないのが現実です。

それを踏まえ、ここではICT教育で成果を上げている自治体をいくつか紹介します。

熊本県熊本市

平井氏によれば、熊本市は全体的な設計がうまくいっている自治体の一例だといいます。

同市におけるICT利用の基本的な方針は、「自由に使えるようにすること」「制限は加えないこと」です。ただしこれは、一部の自治体で見られるような、各校・校長の判断に一任するといった放任ではなく、市の方針として「制限を加えないこと」を明確にしていることがポイントです。

設備面では、児童全員に独立してインターネット接続が可能なセルラーモデルのタブレットを配布しています。これにより、インターネット回線を引いていないなど、家庭環境の違いによってICT利用の格差を避けることができました。

各教科での活用としては、AIが出題するドリルなどを採用し、個々の学習進捗に沿った学びの定着に貢献しています。

また、授業ではさまざまなソフトを活用し、主体的な学びを実現するツールとしてICT機器が位置づけられています。

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茨城県大子町(だいごまち)

大子町は、GIGAスクール構想よりも早い2018年から町内の全小中学校にタブレット端末を配布し、ICT教育を進めていることで知られています。

同町ではGoogleが提供する教育機関向けのソフト群「Google Workspace for Education」(GWE)を導入し、各校が積極的にICTを活用した授業を展開。授業以外の日常的な学校生活でのデジタル化も含めて、全国でもモデルケース的なICT教育が行われています。

現在のICT教育における課題

小学校に限ったことではありませんが、ICT教育の過渡期にある現在では、もちろん課題や懸念もあります。これからICT教育がより発展し、本来の目的を果たすために解決すべき課題を紹介します。

禁止思考との決別と、デジタルシチズンシップの醸成

ICT教育での禁止思考とは、「クラウド禁止」「持ち帰り禁止」など、児童のICT利活用を制限する方針のことを指します。この背景には機器の破損・紛失、教員が想定しない利用によるトラブルなど、近視眼的なリスクを回避することがあります。

これは学校だけの問題ではなく、教育委員会にICTに精通した人材がおらず、「わからないから」という理由で各校に運用方針を委ねてしまうことも一因です。

例えば、ソーシャルメディアへの不適切な投稿など、児童によってはトラブルを起こす可能性もあり、それによって学校や教育委員会が責任を問われるケースもあるかもしれません。しかし、昨今はスマートフォンの普及も進んでいるため、すべてにふたをすると学校の外で問題が起きるリスクもあります。

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