小学校におけるICT教育の現在地 専門家が見る現状と課題
平井氏も、全国自治体でのICT教育の現状を踏まえ、「“悪口掲示板”を避けるのではなく、その状態を乗り越えなければ本来の活用に至らない」と話します。
児童がトラブルを自ら避けられるようにするには、実体験を通じた「情報モラル」の教育が必要です。そのためには禁止思考ではなく、「学校側で関知・認識できる範囲で」あえて自由にICT機器やソフトを使わせる、許容できる範囲の失敗によって学習させるというスタンスがあるべき姿だといえます。
教員の目的意識
現場の最前線においても課題があります。それはICT教育の目的が、気づかぬうちに機器やソフトをとにかく使うことに変わってしまいがちなことです。
ICT教育といえど、あくまで各教科の学びを達成させることが目的であり、その手段としてテクノロジーがあります。
例えば、ビジネスの場などでも、つねにパソコンやスマートフォンではなく、状況に応じて紙とペンを使うなど、自然な道具の使い分けがあります。また、パソコンのソフトも1つのものだけですべてが完結するわけではなく、複数のソフトを特徴や利用目的に合わせて使い分けます。学校教育でもこれと同じような状態をつくることが理想です。
例えば、タブレット端末や電子黒板“だけ”で授業を進めてしまっている場合は、「手段が目的になってしまっている」可能性もあるかもしれません。
大切なのは児童がツールを使い分けられる能力を身に付けることです。そのため、例えばメモをとる場面であれば「ノートをとるかパソコンにするか」を各自が判断できることが大切で、教員の役割はその働きかけをすることです。
また、一般的には中高年世代よりも、デジタルネイティブ世代のほうがICT機器に精通しています。生まれたときからデジタルテクノロジーに触れている児童はICT機器などの学習スピードが速いため、各種のソフトの使い方・使い分けについて意見が上がることもあります。「ICT教育の理想形を児童と一緒につくる」という発想で、こうした声に耳を傾けることも大切です。
加えて、現場をリードできる人材も必要。昨今では教育とテクノロジーどちらもわかる「教育CIO」という役職を設けている自治体・学校も増えています。
ICTの活用で深い学びの実現を
デジタルテクノロジーの発展によって、私たちの生活のあらゆるシーンにICTが入り込んでいます。この傾向はますます加速し、今の小学生が教育課程を終えて社会に出る頃には、より高度なデジタル化が実現されていることは間違いないでしょう。
そうした未来において活躍できる人材を育てるためにも、小学生におけるICT教育は非常に重要な位置づけにあります。
また、学校教育も知に対する考え方が見直される時期にさしかかっています。
従来の伝統であった教え込み型の教育から脱却し、主体的・対話的な深い学びを実現するためにもICT教育は欠かせません。例えば、グループ内での反転学習、学んだ単元の講義動画を自作するなど、デジタルだからこそできるようになった学習方法があります。
ICT教育の本来の目的を念頭に、それを実現する手段としてICTをいかに使いこなしていくかが、GIGAスクール構想が施行された今こそ問われています。

取材協力:平井聡一郎(文部科学省ICT活用教育アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー、経済産業省産業構造審議会臨時委員、茨城大学非常勤講師)
(注記のない写真はPIXTA)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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