全授業オンライン「超難関ミネルバ大」の最強戦略 多様性がなく富裕層クラブ化する米名門大学

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周到なマーケティング戦略で、優秀な学生を短期間に集める

だが、なぜ無名で信用もなかった新設の大学が、短期間のうちに優秀な学生をひきつけることができたのか疑問に思う人は多いに違いない。そこには周到なマーケティング戦略が存在する。

中でも、とくに日本の大学が見習いたいのは、“どういう人たちを学生にしたいのか”という部分にフォーカスしたこと。ミネルバ大学は、経済力にかかわらず、世界中から才能があって努力もできる学生を集めたかった。そこで、教育格差に関心の高い公立高校教員組合のロビイストや、国際性の促進に熱心な国際バカロレア機構、女子を対象にSTEAM教育を行うアラブ首長国連邦の財団など、ミネルバ大学の教育ニーズがあるターゲットを中心に広報活動を行ったのだ。

しかも、実際に学生がどんなニュースやメッセージを見て志望したのか、データを蓄積することで効率的に情報を拡散させていった。いわば、ビジネスの発想を広報や入試に取り入れたのだ。もちろん、こうしたデータを蓄積、分析して活用することは大学の教育においても実践されている。

ミネルバ大学では、「ミネルバ・フォーラム」と呼ばれる独自のオンラインプラットフォームを利用して、すべての授業を原則アクティブラーニングで行っている。どの科目においても、社会で役立つ汎用的かつ実践的な4つのスキルとして「クリティカル思考」「クリエーティブ思考」「プレゼンテーション能力」「コミュニケーション能力」を体得することを基本としている。

独自のオンラインプラットフォーム「ミネルバ・フォーラム」を利用したディスカッション中心の授業

20名以下の少人数でディスカッション中心に行われる授業は録画されており、教員はすべての学生の発言をチェックして、毎回フィードバックを行う。しかも、どんなフィードバックをすれば、どれくらいの期間で、学生の理解度がどれほど上がるのかというデータを取っていて、そのデータに基づいて教員も教授法を修正し、授業のコンテンツを変えるという。

授業中は学生の発言頻度が色分けで表示される。赤は十分に発言、黄色は中程度、緑は発言不足を表す
(ミネルバ大学HPより)

こうした密度の高いフィードバックができるのはオンラインならではだが、それが経験や勘によるものではなく、データに基づいているから確実なスキルの体得につながるのだろう。さらに学生は、企業や研究機関などとの協働プロジェクトを通して、そのスキルを自由に使いこなすことができるレベルにまで持っていくのだ。

今やミネルバ大学の躍進を横目に、カリフォルニア大学バークレー校(法科大学院)をはじめとした米国のトップ校でもミネルバ大学で利用されているオンライン学習システムが導入され始めていると山本氏は話す。

「それは学校教育の評価について、ミネルバより劣勢に立たされそうになっているからです。ICTを実装した教育や学校運営が確実によい効果を生むとわかれば、使わない手はない。しかし、そのとき苦労するのは、学生よりも先生や職員のほうです。ミネルバ大学でさえ、学生は大体3時間で新しいシステムに慣れるが、先生たちは最低3週間かかるといわれています。ICT導入の最大のハードルは、先生や職員のITスキルにあるのです。しかし、使いこなすのはそれほど難しくはない。問題は、自分がこれまでやってきたことを変えたくないという考え方。先生や職員、経営者たちがマインドセットを変えないことこそが、ICT導入が遅れる大きな理由となっているのです」

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