全授業オンライン「超難関ミネルバ大」の最強戦略 多様性がなく富裕層クラブ化する米名門大学
2つ目の理由は、国際性の欠如だ。実は、大学時代に海外で学ぶ学生は全体の約2.5%しかおらず、その約70%以上が北米、欧州、オセアニアに留学しているというデータがある(OECD「Education at a Glance2014」)。グローバル化、情報化が進む社会では異文化を理解し、多様な視点で課題解決できる人材が求められるが、そうした状況では国際的な問題が欧米やWASP(ワスプ:アングロサクソン系プロテスタントの白人支配層)の視点だけで語られることにならないか懸念がある。「米国でも留学生が15%以上いる大学のほうがマイノリティーで、トップ校でさえも留学生は1割を切っていて、ほとんどが自国民」だと言う。
3つ目は投資対効果だ。ミネルバ大学の設立プロジェクトが始動した12年ごろは、米国の大学生は入学者の半分以上が卒業できず、卒業してもフルタイムの仕事に就ける人は、さらにその半分という現実があった。
「ミネルバ大学が設立された14年は、米国の学生ローンの残高が1兆ドルを超えたという衝撃的なニュースが報道されました。そんなに高い学費を払わせて、学生たちを借金漬けにしているのに、大学が本当に社会で役立つ知識や技能を身に付ける教育を行っているのか疑念が生じているのです」
4つ目は、まさにその大学教育で教えていることが、社会に出る準備になっていないということだ。「大学側は学生たちに社会に役立つ教育をしているという認識がある一方、雇用する側の企業のほとんどは、そう思っていないという大きなギャップがある」と話す。全米大学協会が行った調査では、雇用主の93%が「どんな学科を専攻したか」ではなく「問題解決能力があり、困難な事態にも協調性をもって取り組める人材がほしい」と答えているが、そのスキルが既存の大学の履修科目で身に付くのかは疑わしい。
こうした米国の大学が抱える4つの課題を乗り越えるために、ミネルバ大学は生まれた。
通常アイビーリーグでは、年間450万~600万円ほどの学費がかかるが、ミネルバ大学はその3分の1から4分の1となる145万円程度。維持費のかかるキャンパスなどの施設を持たないのは費用を抑えるためで、学生の学びに直結しない投資は極力行わない。それでも日本の大学よりは高いが、ミネルバ大学には入学者の経済状況に応じた給付型の援助制度がある。さらに低金利の学生ローンもあり、それも学内インターンシップに参加すれば、在学中に返済できてしまうという。
学費を抑えて学生の負担を減らすことで、ミネルバ大学は世界中から留学生を受け入れることが可能になり、“どの所得層にもいる才能があって努力する層”にアクセスができるようになった。そうした優秀な人材を集め、最新のテクノロジーを活用したアクティブラーニングで新しい教育を施し、社会の要請に合った新たな人材を育成しているのだ。
「日本にいると、米国の大学はすばらしいように見えますが、そこに通うのはほんの一部の恵まれた人たちなのです。日本から米国に留学している人たちも、富裕層の子息がほとんど。もともと米国の大学は、階層に分け隔てなく優秀な学生を受け入れ、リベラルアーツを軸に少人数教育で確かな判断ができる人材の育成を目指してきました。しかし、大学が巨大化する中で、いつの間にかそんな理想も教育も変質してしまった。ミネルバ大学は、もう一度大学の原点に立ち返って高等教育を再創造するために生まれ、『世界のために英知を提供すること』をミッションとしているのです」