「スマホ持ち込みOK」"改革派"元中学校長の本音 現場の教員に身に付けてほしいのは「人間力」

――校長として教員や生徒と接する際、何を意識していましたか?
気をつけているのは、口先だけではなく実際にやってみせることです。海外で、日本人が「NATO(=No Action, Talk Only)」と揶揄(やゆ)されているのはご存じでしょうか。日本人は話をするばかりで、行動しないという印象を持たれているのでしょう。僕は生徒指導・保護者会・授業など、あらゆる場面で、とにかく行動に移してきました。そうすることで「西郷先生にはかなわない」となり、みんな文句を言わなくなります。
ここでひとつ僕のエピソードを紹介しましょう。昔、英語教員に「校長先生は英語ができないくせに」と言われて頭にきたことがありました。生徒たちが定期的に英検を受けていたので、それなら僕も一緒に受けようと思い立ち、通勤時間にYouTubeなどのアプリを駆使して必死に勉強。その結果、5年かけて英検1級に合格できたんです。さすがに英語教員は何も言わなくなりました。余談ですが、英検の勉強を通じて、スマートフォンのすごさを体感しました。「教員だけでなく、生徒も勉強に取り入れないと損だな」と思いましたね。
子どもたちは教員の“人間力”を見ている
――現場の若手教員たちに身に付けてほしいスキルは何でしょうか?
若手教員に必要なのは、授業力よりも“人間力”。「まず自分を磨きなさい」と、声を大にして伝えたいです。子どもたちは好きな先生の授業なら、どんなに下手でも一生懸命聞いてくれます。逆に、どんなに授業がうまくても、それだけでは好きになってもらえません。
また、子どもたちは驚くほど“空気感”に敏感です。幸福感や緊張感など、その時々の教員の気持ちはダイレクトに伝わってしまいます。でもそれは悪いことじゃない。僕は子どもたちを上から管理したり、子どもは教員より劣っているものだと決めつけたりすることなく、一人の人間として対等に向き合うようにしてきました。自分の生き様をみんなに見せ、信頼関係を築き、ともに悩みながら教員生活を送ってきたんです。
面白いことに1クラス約40人の中には、必ず1人か2人、僕より「人として上だな」と感じる生徒がいるんです。そのような子たちから、僕は多くのことを教わってきました。教員の皆さんも、生徒に教えるだけでなく、教わることのできる人間関係を築いてもらえたらと思います。
えこひいきと言われても気にしないでほしい
――コロナの影響もあり、学校のあり方が変化してきているように思います。今求められているのは、どんなことだと考えますか?
もはや学校は、知識や情報を注入、伝達する場所であってはならないと思っています。今後ICT環境が整備されることで、AIがメインとなって“個別最適化された学び”を生徒たちに与えることになるはずです。それを踏まえて学校が果たすべき役割は、リアルの場でしかできない学びを提供することです。リモートだとなかなかうまくできないと感じるのは、個人と集団の対話。例えば個人のやりたいこととクラス全体のやりたいことを、どうやって折り合いをつけていくか、グループで考えるワークなどです。