「いじめ件数過去最多」学校で今起きていること 認知件数が多いほど肯定的評価というねじれ
さらに、この通知では以下のように「いじめの認知」を再定義している。
「初期段階のいじめであっても学校が組織として把握し(いじめの認知)、見守り、必要に応じて指導し、解決につなげることが重要」「いじめの認知件数が多い学校について、『いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている』と極めて肯定的に評価する」
認知件数がゼロもしくは非常に少ない学校については、「放置されたいじめが多数潜在する場合もあると懸念している」とまで明記している。

これらを踏まえると、認知件数の増加は、いじめが深刻化しているというよりも、学校現場がいじめに対して敏感になってきた表れだといえそうだ。認知件数の急激な増加も、この通知が影響を与えていると考えられる。内藤氏もその点を評価しつつ、児童生徒がSOSを発しやすい環境づくりの必要性を訴えた。
「今回の調査結果からもいえるのは、世の中で着実にいじめに対する意識が高まっているということです。人権意識が高まり、教育行政関係者が『ある程度報告しなければまずい』と考えれば認知件数は増えますが、逆にそれらの意識が低ければ認知件数は当然少なくなります。ただ、いじめというのは数量的な研究が非常に難しい分野です。今回の調査ではいじめ発見のきっかけとして『アンケート調査など学校の取組により発見』が54.2%と最も多かったですが、児童生徒が教室内でアンケートに記入しているのであれば、周囲を気にして、本当に思っていることを書けない可能性も考えられます。全国一律かつ学校での実施にこだわらない調査も視野に入れるべきでしょう」
その一方で、教員にはエールを送りつつ、改革の必要性を指摘する。
「教員1人ができることには限界があります。教員の能力にかかわらず、いじめがひどくならない学校のしくみづくりが重要です。子どもたちを閉鎖空間にとじこめて、極端なまでに集団化するという教育制度を見なおす以外に、有効な改善策はありません。世の中がいじめに対する意識を高めることで、『学校の全体主義』が改善する可能性もあります」
大人の社会でもいじめが存在していることを考えれば、学校におけるいじめの根絶は不可能だ。しかし、病気に早期治療が有効なように、初期段階での迅速な把握を推し進めることで、子どもたちに深手を負わせない可能性は追求すべきだろう。「問題行動等調査」で明らかになる「いじめの認知件数」は、そうやって防止に取り組む教員たちの軌跡なのかもしれない。
(写真:iStock)
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制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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