小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ 検証が必要なのは鉄道側の対応だけではない

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さらに、一旦電車が動き出してから再度電車を停車させ、乗客を線路に下ろして避難させた経緯についても検証が必要だ。今回は運転士・車掌が車両への延焼に気づいておらず、消防隊の指摘を受けてから避難させている。

乗客を線路に下ろして避難させるというのは、鉄道事業者の判断事項である。もし架線が切れて垂れ下がっているようなことがあれば感電の危険があることはもちろん、乗客が線路を避難する区間について、反対方向の電車が走っていないかなどの安全確認が必要だからだ。

小田急は、線路に乗客を降ろす場合は反対方向の電車が停まっていることなどの安全性を確認するため、司令と車掌などが連絡を取り合ってから行うという。乗客が線路に下りる際の安全が確保されていたかどうか、重ねての検証を求めたい。

消防の消火活動、人命救助活動を規則で縛ることには、メリットとデメリットがあり、基本的には瞬時の柔軟な判断を尊重したい。だが今回の非常ボタンによる電車の停止から避難に至るまでの経緯については、鉄道の安全を維持するための大原則に照らして問題がある部分がなかったか、鉄道側だけでなく警察・消防側の行動についても検証が必要だと思う。

沿線火災対応の原則見直しを

小田急電鉄の対応にも注文をつけたい。今回の事故では、運転士や車掌が車両への延焼を認識していなかった。たとえばカメラ映像などで周辺の状況を運転士が確認できる仕組みなどがあればすぐに状況把握ができたかもしれない。火災の状況がわかっていれば、現場の横で緊急停止した後も速やかに発車し、延焼を防げた可能性もある。司令所との交信体制が適切だったかといった点も含め、危機管理の面で鉄道側にも改善の必要な点は多数ある。

また、車両についても検証が必要だろう。今回の事故で燃えたのは、屋根に電気的な絶縁のために塗られているウレタン樹脂で、難燃剤を含む素材で燃えにくくなっているというが、不燃ではない。屋根の難燃性に関しては総合的な検討が必要だ。

今回の事故は幸いにも大事には至らなかったが、これを教訓に、鉄道が絡んだ火災における消防の行動原理について原則の見直しをしてもらいたいと思う。同じ日にはJR中央緩行線の大久保駅付近でも線路際での火災が発生している。できるだけ速やかにガイドラインを整備するなどし、周知徹底を図っていただきたいと思う。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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