ボローニャ紀行 井上ひさし著
著者あこがれの地ボローニャは、イタリアにあってもとりわけ個性的な町である。机上のボローニャ研究を重ねて30年、初めて訪れた古都での丹念な取材、そして期待どおりの「再会」、予想もしなかった現実との遭遇。手練(てだれ)の作家による報告はユーモアを交え軽妙快調に進む。
とはいっても、観光案内風エッセイではない。いいかげんだがしぶといイタリアという国、家族や近隣やスポーツ、文化を国家の上に置くボローニャという町が、政治や社会や文化、そして人々のたくましさを通じて浮かび上がる。
特に独自の「社会的協同組合方式」による劇的な成果だけでも一読に値する。これを遠い国のお話で終わらせてはもったいない。
政府、お上に頼らず知恵と行動で町の魅力を生み出そうとする市民たちの姿はすいっと読めるが含意は重い。著者の永年の思いが露ほども裏切られずに終章に至るというのは、ほとんど奇跡的である。(純)
文藝春秋 1250円
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